惨劇

喫茶店を出て、心春ちゃんと別れて今日のことを湖三に報告しようとしたとき、湖三から電話が来た。


「もしもし?」


「もしもし月城!?」


やけに焦っている口ぶりである。


「なんかやばいことになってるわよ」


「やばいこと?」


やばいことと言われても何も心当たりがない。


「私もさっきニュースで見たんだけど、あんた千宮司先輩と仲が良かったわよね」


「ああ」


「ここ最近千宮司先輩が家に帰ってきていないのは知ってる?」


そんな予感はしていたが、直接聞かされたのはこれで初めてだ。


「いや、知らなかった」


「千宮司先輩は今も家に帰ってきてないみたいなの」


つまり響や衣珠季と同じように行方不明ということか。


だがそれだけでニュースで報道するものなのか?


てっきり響や衣珠季と同じように家でとして扱われると思っていたが。


だが、湖三の話には続きがあるらしい。


「それでさっきのニュースで報道されたんだけど、千宮司先輩の家で妹の千宮司彩華の...死体が発見されたって」


「...は?」


一瞬目の前が真っ白になった。


千宮司彩華が殺された?千宮司先輩の家で?


「でも...それだけじゃなくて」


「なんだ?まだ何かあるのか?」


それ以上は聞いてはいけないと頭の中で警告が響く。


ただ、ここまで踏み込んだからには聞かずににはいられない。


「妹は包丁でめった刺しにされて、その凶器の包丁が家の庭に埋められていたみたいなんだけど」


埋められていたということは隠す気があったということか。


「...その包丁に、千宮司先輩の指紋がついていたみたい」


今度こそ本当に気を失いそうになった。


彩華が包丁でめった刺しにされてその包丁には千宮司先輩の指紋が付着していた?


理解が追い付かない。


頭の中がパンクしそうだ。


今あげられた情報だけで考えるとまるで


「千宮司先輩が自分の妹をめった刺しにして惨殺したみたいじゃないか...」


静かに呟く。


電話の向こうの湖三も何も言わない。


そんな状態が三分ぐらい続いたところで正気に戻る。


「...情報ありがとう湖三。今日はもう休んでくれ」


「分かったけど、アンタはこれからどうするわけ?」


「とりあえず千宮司先輩の家に向かってみる。今まで一回も直接行ったことはないからな」


「...分かった」


電話を切る。


俺は若干放心状態のまま駅まで歩く。


電車に乗り、東南駅に着いた時も放心状態のままだった。


東南駅を出て、俺は早足で辺りを見回す。


途中衣珠季の家が見えたが、今はここに寄っている場合じゃない。


しばらく早足で歩いていると、入り口にテープがたくさん張られた家を発見した。


パトカーも何台かあった。


この数からすると、彩華の死体はもっと早くから発見されていたのだろう。


警察は凶器の包丁に付着した指紋を認証するまで報道しないようにしていたのだろう。


「...これじゃ中には入れないな」


中に入れば何か手掛かりが見つけられると思ったのだが。


いや、何を思い上がっているんだ俺は。


ずっと仲良くしていた女の子との問題も解決できてない俺が殺人事件で役立つことなんてできないだろう。


俺はただ黙って千宮司家を見つめる。


「そういえば前にお爺さんが明善高校の理事長とか言ってたっけ」


だとしたらこの千宮司家の大きさも納得だ。


家の周りをまわって、凶器が埋められていたという庭を見る。


庭には盆栽などが置かれていた。


「...千宮司先輩、めっちゃ育ちいいんじゃん」


今までの会話から先輩が育ちが良いなんて想像できなかった。


「......」


今までの千宮司先輩との思い出がフラッシュバックされる。


ここにいたら悲しい気持ちになるだけだ。


そう思って千宮司家から遠ざかる。


すると見覚えのある公園の前にたどり着いた。


「ここは確か」


忘れもしない。


衣珠季が学校を早退したときに来ていた公園だ。


「......」


無意識にブランコに乗る。


「...あの頃は楽しかったな」


まだ衣珠季が転校してくる前の、千宮司先輩と響と俺とで生徒会の雑務をこなした時を思い起こす。


しばらく思い出にふけっていると


「...なんだ」


ポケットにしまっていたスマホが揺れる。


差出人は千宮司先輩だった。


”今から会えないか?”


メッセージにはそう書かれていた。

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