失踪

急いで衣珠季が運ばれた病院まで向かう。


響が出て行ってから本当に一時間は体が動かなかった。


その間はずっと衣珠季のことを考えていた。


外は雨のようだが俺は傘も持たずに飛び出した。


学校の最寄り駅に着いたらそこからはダッシュだ。


幸いにも学校の周りは何もないためすぐに病院を見つけることができた。


中に入るとすぐに受付に行く。


「す、すみません!」


ここまで走ってきたため息が上がる。


「は、はい。どなたかの面会でしょうか?」


「そうなんです!夜桜衣珠季が入院している部屋はどこですか?」


焦りのため声の音量がうまく調整できない。


「えーっと、ご家族の方ですか?」


「...恋人です」


そう言うと受付の人は黙ってしまった。


よくドラマとかで見たことがあるのだが、こういう場合は家族しか面会が許されない場合がある。


恋人では教えられるか微妙である。


「分かりました...夜桜さんのお部屋はですね」


伝えられた部屋の前まで来た。


どうやら衣珠季は運ばれてすぐに意識を取り戻したらしい。


今は病室で安静にしているということだ。


「......」


ここまで来て少し気まずいと思ってしまう。


衣珠季が入院している原因はもとはと言えば俺である。


俺が千宮司先輩の誘いに乗らなければよかった。


だが、今更後悔しても遅い。


ゆっくりと病室のドアを開けると


「え?」


病室の中には誰もいないことが分かった。


「どういうことだ?」


ひょっとしてもう早退したのか?


いや、そんなわけない。


受付の人はそんなこと一言も言っていなかった。


入れ替わりで退院したとしてもそんな偶然ありえない。


そもそも搬送されてその日に退院なんて聞いたことがない。


「だとしたら...誰かに攫われた?」


それぐらいしか考えられない。


だが誰にも見つからず人一人を病院から連れ出すことなんてできるのか?


「いや、響なら」


真っ先に響を疑ってしまう思考に虫唾が走る。


「さっき響は病院には行かないって言っていただろう」


最もその言葉を信用してない自分もいるが。


「まずは病院の人にこのことを伝えないと...!」


俺は近くにいた看護師さんにこのことを伝へ、すぐに捜索が始まった。


だが、結局その日に見つかることはなかった。


行方不明者として扱われるかは怪しいらしい。


病院側は入院中の患者が抜け出すことなんてよくあることだと処理をした。


その決定に反発しそうになったが衣珠季の親がそれで了承しているため俺がどうこう言える立場ではない。


親によれば衣珠季が家でして数日帰ってこないということはこれまでもあったらしい。


だが俺はそんな悠長なこと言っている場合ではないということを確信していた。


俺は何日も衣珠季を探し続けた。


一応知り合いなクラスメイトや友達にも協力してもらった。


湖三にも情報提供を頼んだが何一つ情報は掴めていない。


もう手詰まりだと思った時に、響の妹である心春ちゃんから電話がかかってきた。


「もしもし心春ちゃん、懐かしいね」


心春ちゃんとは響の家にお邪魔していた時に何回か一緒に遊んだことがある。


「お久しぶりです都斗さん」


電話の向こうの心春ちゃんの声は少しやつれているように聞こえた。


そのことから一つの確信にたどり着く。


いや、前から気づいていたはずだ。


「それでいきなりどうしたの心春ちゃん?いきなり電話してくるなんて?」


答えなど分かり切っているのに、ここはあえて問いを投げかけてみる。


「実は、お姉ちゃんがここ数日帰ってきていないんです」


やっぱり思った通りだ。


あの日、響が俺としばらくお別れすると言った日から気づいていたはずなのに、衣珠季の捜索に夢中で目をそらしていた。


「それで、少し都斗さんにお尋ねしたいことがあるのでこれから会えませんか?」


「分かった。どこに行けばいい?」


「はい、待ち合わせ場所は...」

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