事態の収拾
「...ここは俺の部屋か...?」
目覚めると自分の部屋の天井が見えた。
昨日も同じように目が覚めたら衣珠季の部屋のベットにいた。
「で、確か横に衣珠季が」
「なんでそこで衣珠季ちゃんの名前が出るのかなぁ?都斗君」
横にいたのは衣珠季ではなく、口元が歪んでいるが目が全く笑っていない響だった。
「...響」
「こんばんは都斗君」
そうか。確か俺は後ろからスタンガンか何かで気絶させられたんだった。
その時最後に聴いたのは響の声だった覚えがある。
「...つまり響が俺のことを気絶させて俺の部屋まで連れてきたということか」
「...理解が早いね」
「家にはどうやって入ったんだ?」
確かまだ親は帰ってきていない時間だと思うが。
「合鍵ぐらい持っていても普通でしょ?」
まぁ確かに今の響なら持っていて当然だな。
「あと...」
衣珠季のことを訊こうとしたが勇気が出ない。
あの場に響がいたということは、何かしら衣珠季に危害を加えた可能性が高いからだ。
「その顔は衣珠季ちゃんが今どうしているか訊きたそうだね」
「お見通しってわけか」
「うん、都斗君が何考えて何を思っているか私にはすべて分かるよ」
気味の悪い話だ。
「それで衣珠季ちゃんのことだよね。結論から言うと私は衣珠季ちゃんに危害を加えたりはしてないよ」
「......」
...響の言っていることがどうしても信用できない。
「ヒドいなぁー。今まで一緒に過ごしてきた私のことを信用できないなんて」
少し寂しそうにつぶやく響を見て罪悪感が押し寄せてくる。
「一応衣珠季ちゃんは気を失っていたから救急車を呼んでおいたよ。多分学校のすぐ近くにある病院にいるんじゃないかな」
ここまで言うということは響は本当に救急車を呼んだのだろう。
後でお見舞いしに行くか。
「それで...千宮司先輩はどうした?」
「それがね...行方が分からないんだよ」
「分からない?」
「うん、救急車が来た時にはもう千宮司先輩は学校にいなかったんだ。多分家に帰っているんだろうけど私は千宮司先輩の住所を知らないんだよね」
俺も千宮司先輩の家の住所は知らない。
確か以前一緒に帰った時は最寄りが東南駅と言っていた気がするが。
衣珠季が被害届を出せばこれは傷害事件として扱われるだろう。
だができれば俺は千宮司先輩が捕まる未来なんて見たくない。
「都斗君は優しいね。今千宮司先輩のことを心配していたでしょ」
「...ああ」
そう。あんなことをされたが俺はこれからも千宮司先輩と交友関係を続けたいと思っている。
例え千宮司先輩が逮捕されても。
そのためにまず衣珠季に話をしに行かなくてはならない。
病院に行こうとしてか体を起こそうとする。
だが
「...ん?なんだこれ?体が動かないぞ!?」
どれだけ力を入れて起き上がろうとしても体が動くことはない。
「あ~やっと気づいたんだね」
「響?」
この時点で俺は響が何か俺の体に細工したと察する。
「実は都斗君が寝ている間にある薬を投与したんだ」
「薬?」
「そう薬。一定時間体が動かなくなる薬だよ」
「!?」
それを聞いてますます体を過剰に動かそうとする。
「都斗君。あんまり薬の効果に逆らうのはよくないよ」
響が暴れるわが子を見て困っている母親のような目で言う。
「私の計算だと後一時間ぐらいで薬の効果は切れるからさ」
そう言って響は部屋を出て行こうとする。
「待て、どこに行こうとする」
「何?もしかして寂しいの?」
寂しいと全く思っていない自分に腹が立つ。
「冗談だよ。都斗君は私が衣珠季ちゃんの病院に行くかもしれないと思っているんでしょ?」
「...そうだ」
「安心してよ。病院には行かないよ。それに」
「それに?」
「こんなんじゃ足りない...!もっとあの女には生き地獄を味合わせてやらなくちゃ...!」
突然憎悪に燃える響を見て言葉が詰まる。
「それじゃ都斗君。しばらくのお別れだね」
「しばらくの?」
「私もそろそろ本格的に動かなくちゃいけないみたいだからさ」
まるで覚悟を決めたかのような言い方をする。
「じゃあ私はもう行くよ」
そう言って響は今度こそ部屋から出て行こうとする。
「...待ってくれ響!」
呼び止めようとするも体が動かない。
俺はこうしてまたもや自分の無力さを痛感するのであった。
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