呼び出し

「それにしても千宮司先輩夏休み中に学校に呼び出してどうしたんだろうね?」


「多分夏休み中に何か生徒会の仕事があるんだろうな」


千宮司先輩からのメッセージにはこう書かれていた。


”明日朝8時半に夜桜君を連れて生徒会室まで来い”


このメッセージには違和感を覚える。


千宮司先輩には珍しく命令口調なのだ。


いつもの千宮司先輩だったら”来てくれ”という言い方をするはずだ。


なのに今回は”来い”という命令口調なことからよほどの緊急事態なのだろう。


「「失礼します」」


二人で生徒会室に入る。


「...来たな」


そんな俺たちに一言。


やっぱり今日の千宮司先輩はちょっと変だ。


「わざわざ夏休み中に呼び出して悪かったな」


「あーいえ、暇していたのでちょうどいいです」


「そうか」


いつもより内数が少ない。


「あの、千宮司先輩?」


衣珠季が話しかける。


「なんだ?」


「どうかしたんですか?今日の千宮司先輩はいつもより冷たいというか...」


俺の気持ちを代弁して質問する。


「ほう、そう見えるか?」


「はい、見えます」


俺もうなずく。


「そうか。冷たく見えるのか。だとしたらなんでだと思う?」


「えーっと、」


訊かれて言葉を詰まらす。


心当たりが本当にない。


俺が悩んでいると衣珠季が先に口を開いた。


「あの、もしかして今までの私の失礼な態度でしょうか」


「......」


千宮司先輩はその答えに対し何も言わない。


ただ黙って衣珠季のことを見つめている。


「だとしたら謝ります。そして二度と生徒会に顔を出さないと約束します」


衣珠季の声は真剣だった。


「ほう、謝るのか?」


「はい、千宮司先輩がお望みなら」


「そうか...」


また重い沈黙が続く。


その沈黙を破ったのは千宮司先輩だった。


「君が私に頭を下げるのが結構だが...その理由が的外れだな」


「的外れ?」


つまり衣珠季に対して怒っているのは本当だが、その理由が違うということか。


「ほかには思いつかないのか...」


「悪いですが何も...」


衣珠季がそう言うと千宮司先輩が衣珠季に近づく。


嫌な予感がした俺は衣珠季を守るため前に出ようとしたが


「動くな」


「!?」


千宮司先輩に沿う命令され、体が動かなくなった。


何だこれは?


別に体がしびれているわけではない。


どこか怪我してるわけでもない。


ただ、その一言で俺の本能が体を動かすことを拒否した。


もし動かしたらどんな目に遭うか分かっているかのように。


千宮司先輩は衣珠季の前までくるとさっきと同じ問いを投げかけた。


「本当に他に心当たりはないのか?」


「はい...!?」


すると千宮司先輩は衣珠季の髪を思いっきり掴み上げた。


流石にその行動は絶対に止めなくてはと思い、体を動かす。


「何してるんでっ!?」


最後まで言い終わる前に千宮司先輩の拳が俺の腹に深くめり込んだ。


「...がぁっ!?」


昨日衣珠季の殴られた時よりも痛みは激しい。


「...ぐっ」


思わず胃の中のものを吐き出しそうになる。


「すまないね月城君。今は少しそこで大人しくしていてくれ」


もう千宮司先輩の声があまり聞き取れないぐらい意識がもうろうとしてきた。


俺はまた意識を失うって失うっていうのか...


彼女の一人も守れずに!


自分の無力さを嫌悪しながら目の前が真っ白になるのが見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る