飴と鞭

「あ、起きた?」


目が覚めると衣珠季の顔があった。


「い、衣珠季?」


なんで衣珠季が?というかここどこ?


俺はなんで寝転んでいるんだ?。


「そ、その...ごめん!ごめんなさい!」


衣珠季が突然謝り始めた。


「えーっと何が?」


「都斗のことを殴ちゃって...」


「俺を殴った...?」


記憶を探る。


「俺は確か...衣珠季に殴られて」


そうだ。


衣珠季に殴られて気絶したんだった。


「謝って許されることじゃないけど...本当にごめんなさい!」


必死に頭を下げる衣珠季。


「ま、まぁそんなに頭を下げなくても...俺も衣珠季のことを怒らせるようなことしちゃったんだし」


「うん...確かにそうだね」


...意外と切り替え早いな。


「じゃあ仲直りのしるしとして今日は一緒に夕ご飯食べよう?」


「また衣珠季のお母さんが作ってくれるのか?」


「お母さんは今日出張でいないよ。だから私が作ってあげる」


あまり衣珠季が料理しているところが想像できないな。


「何かリクエストとかある?」


「リクエストか...」


とくにはないが、でもこういう時は大体オムライスだろ。


「じゃあオムライスで」


「オムライスか...うん!分かったよ」


そう返事をして衣珠季は元気よく一回の台所に降りて行った。


俺は体を起こし部屋の鏡を見てみる。


「...結構怪我してるな」


ほっぺたに大きなばんそうこうを貼られていた。


「まだ痛みは残ってるな」


これは安静にしておくべきか...?


ベットに戻ろうとするとふと部屋中に飾ってある俺の写真が目に映った。


「ちょっと数が多いけどこれぐらい普通だよな」


自分の写真を見るとあまり自分の顔があまり整っていないことに気づく。


「それにしてもこんなに部屋中俺の写真だらけで気持ち悪くないのか?」


正直言うと俺の部屋がもし一面に衣珠季の写真があったら気持ち悪いと思ってしまう。


しばらく自分の写真を見ながら物思いにふけっていると


「都斗!できたよ!」


勢いよく部屋のドアが開かれた。


ちょっと早いと思いながらも一階の食卓に行くと


「...めっちゃキレイなオムライスだな」


ちゃんと卵の形が整っている。


「ほら、座って座って」


衣珠季が座ることをせかす。


「えーっと、ここでいいのか?」


「うん、私はこっちに座るからね」


向かい合うよな配置になった。


「それじゃあいただきます」


「いただきます」


早速ケチャップをかけて口に運ぶ。


「普通に新岡千駅のオムライスより美味い」


以前響と一緒に食べたオムライスの何倍も美味い。


「よく短時間でこんなオムライス作れ...た...な?」


正面を向くと衣珠季が殺意を込めた目で俺のことを見つめていた。


「...っ」


なんかこの目を見ると既視感を感じる。


今日は何回もこの瞳を見たな。


「...今、あのクソ女のこと考えていなかった?」


クソ女というのは響のことだろう。


とうとう”響ちゃん”と呼ばなくなったな。


「...い、いや。考えてないぞ」


そうは言ってみたものの動揺しているのは容易に分かる。


「......」


しばらく俺のことを疑うように見つめる衣珠季。


「うん。そうだよね。あんなクソ女のことを都斗が心配してるわけないよね」


そう言って自己完結してくれたみたいだ。


「ほら、手が止まってるよ都斗」


「あ、ああ、悪い」


殺気の目からすぐに笑みに切り替えられるのは素直に凄いと感じる。


そこからはごく普通のカップルの会話をしながらオムライスを完食した。


衣珠季が洗い物をしている姿を眺めているとずっと電源を切っていたスマホをいじる。


すると大量の衣珠季からのメッセージがあった。


そりゃそうだ。


今日は響の策略で待ち合わせ場所が違ったのだからだから大量メッセージを送っても当然だろ。


「ん?」


だがそんなメッセージの中に一通だけ違う人物からメッセージが届いていたのを発見した。


「...これは、千宮司先輩?」

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