思わぬ再開3

「そう。明善高校生徒会長の千宮司央花の妹が佐賀暮君の浮気相手だよ」


たしか前に千宮司先輩が妹がいるって言ってたな。


しかも引きこもりとも。


「衣珠季ちゃんがあることないことを噂したせいで不登校になっちゃったんだって。かわいそう...とは思わないね」


そりゃそうだ。


どれだけ陰口を言われようと浮気した二人が悪いことに変わりはないんだから。


だが、それがあの千宮司先輩の妹とっていうのがなんとも言えないな。


「にしても二人ともなかなかトイレから出てこないね。何をしてるんだろうね?」


ニヤニヤしながら響が訊いてきた。


「ねぇ、もしいやらしいことしてたらどうする?」


ちょっとショックを受けた。


前までの響は冗談でもそんなことを言う奴じゃなかった。


「ねぇ都斗君。今私に幻滅した?」


「い、いやそんなことは」


「誤魔化さなくていいよ。自覚もしてるしさ」


あ、自覚してるんだ。


「でもね、都斗君が私を変えたんだよ。少しは責任感じてほしいな」


「...分かってる」


ああ、わかってるさ。俺が自分自身で響を変えたってことは。


「まぁいやらしいことをしてるってのは冗談として、衣珠季ちゃん佐賀暮君に暴行を加えてるんじゃないかな?」


「......」


なんとなくだが響のその予想は当たっている気がする。


さっきの首を掴んだ時の衣珠季の目には殺気がこもっていた。


「ねぇ、もし衣珠季ちゃんが佐賀暮君を殺しでもしたら都斗君はどうするのかな?」


「...衣珠季はそんなことしない」


「え~そうかな?さっきの様子からして十分やっちゃう可能性はあると思うんだけど」


殺しはさすがにしないと確信をもって言える。


だが


だがもしいつか本当に衣珠季が殺人を犯したりでもしたら...俺は今までと同じようなセリフを言えるだろうか?


「今都斗君はもし本当に衣珠季ちゃんが殺人を犯したらどうしようかって不安に思っているね」


なんで響はこんなにも俺の考えていることが分かるんだ。


「でも大丈夫。衣珠季ちゃんは殺人を犯すような子じゃないよ」


また驚かされた。


響なら肯定してくると思ったのだが。


「衣珠季ちゃんはどれぐらい暴行を加えたら人は限界を迎えるのか。どれぐらい脅したら刑事事件になるのかならないのかしっかり把握している子だから」


嫌味だな。


響が自己解釈を語っていると男が出てきた。


「...!?」


「あちゃ~。これは結構衣珠季ちゃんも暴れたね」


トイレから出てきた男の顔は、全体が晴れており、ほっぺたが紫いろになっていた。


「こ、これを衣珠季がやったのか...」


だが、何回でも言うが衣珠季にはこれぐらいする権利がある。


浮気された挙句、さっきは向こうから殴ってきたのだから。


「あ、衣珠季ちゃんも出てきたよ」


トイレから出てきた衣珠季の顔は無表情だった。


「...っ」


少し息を飲む。


本当に衣珠季の顔がマネキンのように無表情なのだ。


「てか本当によく気づかれないな」


多分今は近くの茂みにでも隠れて撮っているんだろう。


衣珠季が駅に戻っていく。


その後ろ姿を追っていく。


ただ改札口まで来たところで、突然衣珠季が後ろを向いた。


ホラー映像を見ているようだ。


「さっきから何撮っているの?」


さっきからということはやはり気づいていたのだろう。


「...はぁー。失敗か。やっぱりクズ女は使えねぇな」


響が心底失望したかのような声で呟く。


それから衣珠季がこちらに近づいてきたところで通話が切れる。


「まぁここは切るのが得策かな」


響は極めて冷静だ。


「ねぇ都斗君」


「なんだひ...うわっ!」


スマホをしまったと思うといきなり響が押し倒してきた。


「何するん」


言い終える前に響が馬乗りになる。


「......」


響は何も言わない。


何も映していない瞳で俺のことを見つめてくる。


なぜか無性に恐怖心が湧いてくる。


そこから3分ぐらい無の時間が流れた。


「あ、そうだ。いいこと思いついた。」


響がまた嗜虐的な笑みをすると誰かに電話をし始めた。


「あ、もしもし衣珠季ちゃん、聞こえる~?」


...やっぱり思った通り衣珠季に電話をかけた。

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