最悪な再開2

「グッ!い、衣珠季...やめてくれ!」


「は?お前から絡んできたんだろ?」


トイレで殴り続けていたら今度はやめてと懇願してきた。


「こ、これ以上やったら被害届を出してやってもいいんだぞ!」


「いいよ別に。好きにすれば?」


「は?」


本当にこの単細胞は頭が悪い。


「私がお前に手を出した証拠なんてないんだしさ」


「まさかお前!」


やっと気づいたか。私がなんでわざわざ公園の多目的トイレに連れ込んだか。


「ここにはカメラもないから今お前が私に暴行を受けているなんて証明できない」


「でも駅にはたくさんの人がいたぞ!」


「お前本当馬鹿だね。あの時はお前が私を殴ったんだから誰も私がお前に今暴行を加えているなんて思うわけないだろ」


「あ」


ホントクズで頭が悪い。


なんでこんな奴と恋人なんかになったのか理由が分からない。


「もうお前を殴るのにも飽きたからさっさと行けよ」


「...っ」


悔しそうに顔を歪めてそのまま立ち去ろうとする。


「あ、ちょっと待て」


「...な、なんだよ」


怯えながらこちらを向く。


うわ、自分でやっておいてなんでけどあの顔はだいぶ痛そう。


「さっきも言ったけどもし次”私たち”の前に現れたら...」


胸倉を掴む。


「ひっ」


「今度は本当に消すからな...?」


今度こそ男はダッシュで多目的トイレから出て行った。


その後ろ姿を見て私は


(今度こそ本当にさようなら。私の幼馴染の...)


名前を思い出そうと思ったがそれすらおぞましくてやめた。


(そういえばあいつ誰だっけな。知らないよくわからない奴だったな)


そう思うことにした。


ふと時計を見ると


「あ、もう7時50分だ!」


都斗との約束の時間を50分も過ぎていた。


「早く戻らなくちゃ!」


急いで待ち合わせの駅まで戻る。


「...え?」


戻ってきたのはいいが都斗の姿がどこにもない。


「...もう50分も過ぎているのに」


まさか本当に都斗がすっぽかした?私との約束を?


「......」


なんだろう。


無性にムカついてきた。


どうしようもなくムカついてきた。


このイラつきを何にぶつければいいだろう?


やっぱりあの男を捕まえてまた多目的トイレで殴ってやろうかな?


よしそうしよう。あいつにはサンドバックになってもらおう。


そう決め私はさっきの男がどこにいるか探す。


あの様子だとまだ新岡千駅周辺にいるはずだ。


「...でさ、さっきからずっと気になっているんだけど」


私はとっさに後ろを向く。


「さっきから何撮っているの?」


「え?」


「いや、え?じゃなくてさ...」


私から少し離れたところにいる同い年ぐらいの女に言った。


女は帽子にサングラスにマスクをしていて明らかに怪しい。


「そのスマホでさっきから私のことを撮影しているよね?」


「...な、なんで?」


「気づいてないとでも思ったの?あの男の首を掴んで連れて行くところで目が合ったの気づかなかった?」


「......」


「それにそのあともずっとつけてきたよね」


「......」


女は黙ったままだ。


「多分トイレの前でずっと待ってたんでしょ?」


気配はずっとしていた。


「でもいい度胸してるよね?あの男の顔面がはれ上がって出てきたのは目撃したんでしょ?それでも私の後をつけてくるなんてね」


「......」


女は相変わらず黙ったままだが、その体は震えている。


「あとさー。それで変装しているつもり?」


「...え?」


「私は貴女が誰か分かるよ」


女の耳元ではっきりと名前を口にする。


「久しぶり、千宮司彩華さん」

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