思わぬ再開

「えーっと、確かここであっているのか」


昨日湖三に言われた場所に到着する。


「それにしてもなんだここ?廃ビル?」


目の前にあるのは割と新しい気がするが、電気がついていなく誰もいなさそうなオフィスビルだった。


「...廃ビルにしては新しすぎるな」


多分今日はこの会社も休みなんだろう。


ならなおさら無断で入っていいのか?


「湖三が事前に許可を取っている可能性もあるのか」


とにかくここでうじうじしてても始まらない。


俺は思い切って中に入ってみる。


「やっぱりこれ廃ビルじゃないな」


エントランスが綺麗すぎる。


受付を見てみる。


「...どこだこの会社?聞いたことないぞ」


失礼だがおそらくあまり有名ではない会社のオフィスだろう。


「でもなんでこんなところを湖三が?」


もしかして湖三の親の会社とかか?


まぁありえそうな話ではあるが。


「それにしてももうすぐ待ち合わせ時間だぞ。湖三の奴はまだか?」


「菜草ちゃんなら来ないよ」


「え?」


突然上から聞き覚えのある声がしたのでエスカレーターの方を向く。


そこには


「...響」


「おはよう都斗君。君ならきっと来てくれると思っていたよ」


不敵な笑みを浮かべて俺を見下ろしている桐生響がいた。


「...どうしてここに響が」


「昨日の電話はね、私が菜草ちゃんを脅して無理やりさせたことなんだ」


だから昨日菜草はあんなに切羽詰まったような声だったのか。


おそらく衣珠季に連絡するなって言ったのもスマホの電源を切っておけって言ったのも衣珠季に悟らせないためか。


「ど、どうしてこんなことを?」


「どうして?聞きたいのはこっちだよ。どうして都斗君は私のことを捨てておいて平然と衣珠季ちゃんとデートする約束なんて立てているのかな?」


「......」


覚悟していたことだが、響は全然納得していなかった。


「普通は自責の念とかに押しつぶされて夏休み中はずっと引きこもりとかになるはずなのに。どうして都斗君はそんなものは一切感じていないのかな?」


「それは誤解だ響。俺もお前じゃなくて衣珠季を選んだことに罪悪感の一つは」


「あのさぁ」


響が俺の言葉を途中で遮る。


その様子から響がだいぶイライラしているのが見て取れる。


「選んだとかいう綺麗な表現使わないでもらえるかな?君は衣珠季ちゃんを選んだんじゃなくて私を捨てたんだよ」


響の言葉にはまだ俺が衣珠季を選んだという事実を認めたくないようなことを含んでいる。


「ねぇ、私のどこがいけなかったのかな?口調?性格?顔?体系?頭?都斗君が希望してくれれば私はなんだって直せるよ?スポーツができる子がいいんだったら私はこれから先死ぬ気で頑張って部活動にもたくさん入部するよ?勉強ができる子がいいんだって言うんだったら次の全国模試で一位を取ってあげても良いよ?それだけじゃない。もっとロングがいいんだったらもうこの先一生髪を切らないし高身長がいいっていならほら、あの無理やり骨を折る手術だって受けるよ。だからほら何でも言ってみて」


響が一気にまくしたてる。


「響、俺は別にお前に問題があるとは言っていない。ただただ衣珠季と一緒にいたい、それだけだ」


「......」


俺がそう言うと響は押し黙る。


「ふーん、こんなにお願いしても君は私を捨てるんだ」


「さっきも言ったがお前を捨てたわけじゃない。ただ衣珠季を選んだだけだ」


俺がこの事実を口にすることでどれだけ響を苦しませるか分かってる。


分かっているがこうもしないと響はずっと認めないまま現実逃避し続けるだけだ。


「...まぁ都斗君の答えは最初から分かっていたよ」


「え?」


おかしいな。


もう少し発狂すると思ったんだが。


「ねぇ都斗君、私がなんで今日君をここに呼び出したか分かる?」


「なんでって...」


さっきのことを俺に言うのが目的じゃなかったというわけか。


「この会社はね。私のお母さんの会社なんだ」


響の家が金持ちなのは知っていた。


「私が今日ここを貸し切りで使いたいって言ったらお母さんが休みにしてくれたの」


...そんな理由で自分の会社休みにしていいのか?


「で、結局何が目的なんだ?」


「もう、そんなにせかさなくても教えてあげるのに」


響は相変わらずニヤついた笑みでエスカレーターを下る。


妙だな。


やけに響が上機嫌だ。


響の笑みは明らかに嗜虐心がこもっている笑みだが。


「あ、もしもし」


いきなり響はスマホで誰かに電話をつないだ。


「じゃあカメラモードにして」


そう言うと響が俺にスマホの画面を見せつけてきた。


「都斗君、今日は二人でこの映像を観賞しようよ」


映像に映っているのはどうやら新岡千駅のようだが。


「え、これは衣珠季か?」


の中には衣珠季と..衣珠季を思いっきり罵倒している高校生ぐらいの男が映っていた。

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