最悪な再開

「...もうすぐ7時になるんだけどな」


約束の時間になっても来なさそうな恋人に腹が立ってくる。


「もしかして本当に寝坊したとか?だとしたら...ふふふ」


都斗が私との約束をすっぽかしたと思うと自分でも引くぐらいドス黒い感情が襲ってきた。


「電話しても全然出ないし」


イライラし過ぎでスマホを握る力が強くなってくる。


「こうなったら都斗の家に直接行くか」


せっかく新岡千駅で待っていたが、こうなると埒が明かない。


電車に乗るために駅の方に戻る。


「...え?」


駅の方に向かうため後ろに向き直ると、”見たことのある男”が私のことを見つめていた。


「...衣珠季」


その呼び声には覚えがある。


都斗と付き合ってから完全に記憶から消し去ったはずの人物。


「た、タツ君...」


本当はその名を口にしたくなかった。


だが、かつての幼馴染の顔を見た瞬間その名を呼ばずにはいられなかった。


「ひ、久しぶりだな衣珠季」


タツ君は以前よりも顔がだいぶやつれていて痩せていた。


「なぁ、あの後俺と彩華がどんな生活を送ってきたと思う!」


何を言うかと思ったら私への恨み言か。


「あんな噂が流れたせいでクラス、いや、学校全体から罵詈雑言を浴びせられて、嫌がらせが続く日々」


私はすぐに転校したため、あの後二人がどんな生活を送ったかは知らなかったし興味もなかった。


「分かるか?お前があんな適当な嘘を掲示板に書いたからこんなことになったんだぞ!」


確かに私は嘘をついた。


「昔から家族ぐるみの付き合いまでしてたのによ!そんな幼馴染にあそこまでの仕打ちができるか!」


昔のことを持ち出してきた。


「おかげで家族からも絶縁されそうで、そうなったらとうとうホームレス生活だよ」


「......」


「これも全部お前のせいだ!!」


「......」


私は今何を感じてるだろう。


目の前でかつての幼馴染兼元カレが必死に喚いている。


全部私のせいだと言っている。確かにそうだ。私が掲示板に嘘の情報を書いたのが元凶だ。


なら私は罪悪感の一つでも感じているか。同情しているか?自分を外道かと思うか?


答えは否だ。


私は何も感じていない。


ただただせっかくの都斗とのデートがこんなその辺のゴキブリと同様の価値の男に出会ったことで台無しになったと興ざめしている。


「今すぐ土下座しろ!」


まだ目の前のダニが何かをほざいている。


そろそろ目障りだな。


「おい、聞いているのか!土下座しろって言ってるんだ」


「うるせぇな」


「え?」


ああ、ちょっと私が心の声を口に出しただけでこんなに怯えるのか。


「さっきからどうでもいいこと喚き散らしやがって。やめろよ、耳が腐る」


「い、衣珠季?」


「私のことを名前で言わないでくれない?汚れるから」


「...ひっ」


ホント情けないゴキブリだ。


私が少し強めに言うとすぐ怯える。


「ほら、さっさとどこかに消えてくれない?お前なんてもう私にとって何にも価値がないんだからさ」


「さ、さっきから黙っていればいい気になりやがって!」


あ~もうそのまま怯えていればいいものを?

何これ?男のプライドっていうやつ?


「今すぐお前をぼこぼこに殴ってやってもいいんだぞ」


「やってみろよ」


「こ、この野郎!!!!」


ゴキブリ男が私の顔に受かって思いっきり腕を伸ばす。


私は抵抗せず正面からそのパンチを受ける。


「...っ」


流石に男のパンチをまともに受けるのは痛いな。

少し鼻血が出てきた。


「...どうだ。これで思い知ったか」


何を思い知ったと思っているのだろう。


「...そっちから私に手を出してきたんだ。もう何されても文句言えないよね?」


「...っ!?」


男が恐怖のあまり逃げようとする。


もちろんそんなことさせない。


男の首を掴む。


「な、何をする!」


ここでやってもいいいんだけどちょっと人目がありすぎるな。


「おい、ちょっとついてこい。もし逃げたら...分かるよな?」


「...分かった」


私は首を掴んだまま、駅のすぐ近くにある大きな公園の多目的トイレに入った。


本当は今すぐにでも都斗を迎えに行きたいんだけど、今後このゴキブリが都斗に何か害を及ぼすかもしれないから、暴力で二度と関わらないと誓わせないと。

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