贖罪
「えーっと、確かここら辺のはずだけど」
私は今ある人物を探している。
「あれ~いつも帰る時はこのルートを通ってなかったっけ?」
運がいいことに正徳高校も明善高校と同じく今日が終業式だ。
そのため私はこうしてかつてのクラスメイトを待っている。
「今日はどこかに寄り道でもしてるのかぁ~」
だとしたら面倒だ。
私はそこまで我慢強い方ではない。
しばらく待っていると
「あ、来た来た」
目的の人物が近づいてきたことが分かった。
「ん?え?ひ、響?」
その人物は私を見るなり驚きで目を丸くする。
「お久しぶりだね菜草ちゃん」
菜草ちゃんは突然の私の登場に理解が追い付いていないようだ。
「ごめんね菜草ちゃんに何も説明しないまま転校なんかしたりして」
これは私の本心でもある。
思い返せば菜草ちゃんは都斗君の次に私と仲良くしてくれた子だ。
そんな子に黙って転校したことについては私に非がある。
でもそれ以上に菜草ちゃんの罪は重い。
「こんなところで何してたの」
「見て分からなかなぁ。菜草ちゃんを待っていたんだよ」
そう言った瞬間菜草ちゃんが固まる。
顔は明らかに怯えている。
「い、今更私に何の用?」
「その言い方は酷いなぁ~。私たち友達でしょ?」
「友達って言ってももうアンタは転校したでしょ。だったらもう友達関係はおしまいよ」
今の私を前にしてそんなことが言えるんだ。
逆に感心しちゃう。
「友達をやめるとか言っちゃうんだー菜草ちゃんは。でもさ...そうやって自分の罪から逃げる気?」
「!?」
私の声が低くなったのに悪寒を感じ、とっさに私と距離を話す菜草ちゃん。
「は、はぁ?私の罪って何?」
「とぼけるんだねー。でも私知ってるよ」
「...知ってるって何を?」
菜草ちゃんの顔は完全に何か後ろめたいことがあるような顔をしていた。
「菜草ちゃんだよね?都斗君に私と会わない方がいいってアドバイスしたのは」
「...っ!?」
平然を装ってるつもりだろうけどその顔はもうバレバレ。
「今思うと菜草ちゃんはいつも私の邪魔ばかりしてたね」
「邪魔ってそんなこと」
「言い訳するんじゃねえよぉぉぉぉ!」
私が怒号を上げると菜草ちゃんは恐怖で金縛りにあったようだ。
「私が都斗君と衣珠季ちゃんに直接関係を問いただそうとしていた時もお前は邪魔ばっかりしてたよなぁ!?」
「......」
菜草ちゃんは今にも泣きだしてしまいそうなぐらい怯えている。
「でも大丈夫だよ。菜草ちゃんには今から贖罪の機会を与えてあげるから」
「...何させる気?」
あからさまに警戒している。
「今から都斗君に電話して」
私は短く簡潔に告げる。
「え、それってどういう」
「いちいちうるせぇな。いいから電話しろよ」
「ひっ」
私がちょっと低い声出しただけですぐ恐縮しちゃうんだから。
可愛いね。菜草ちゃんは。
急いで都斗君の電話番号を打つ菜草ちゃん。
「一応言っておくけど余計なことはないも喋るなよ。もし喋ったら...分かるよね?」
菜草ちゃんは涙目になりながらうなづく。
かけてから何コールもしないうちに都斗君が出た。
「...っ...っ」
都斗君が出たのにも関わらず目の前の女は何も発言しない。
ホント使えねぇ~な~。
「湖三?どうした?電話なんかしてきて」
久しぶりに聴く都斗君の声。
涙が出そうになるのを必死にこらえる。
「...っ...っ」
相変わらず菜草ちゃんは固まったまま言葉を発さない。
これはちょっと私も手助けしちゃおうかな。
そう決め、菜草ちゃんの首を掴む。
「湖三?大丈夫か?」
「...つ、月城」
そうするとやっと都斗君の言葉にも反応できるようになった。
そこから私の指示通りに都斗君を明日とある場所に呼び出すことに成功した。
「...これで菜草ちゃんの罪は贖罪されたよ。許してあげる」
電話を切った菜草ちゃんに優しくしゃべりかけるが、心ここにあらずという感じだ。
「それじゃまたどこかで会おうね。菜草ちゃん」
私は放心状態の菜草ちゃんを無視して家に帰った。
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