仕掛け

「明日から夏休みだね」


「そうだな」


明善高校は今日が終業式で明日からは高校生活最初の夏休みだ。


「明日からの予定はどうする?」


「そうだな...」


俺は今まで彼女と夏休みを過ごすなんて経験はしたことがない。


そのため、夏と言えばどこへ行けばいいのか、何回ぐらいの頻度で会えばいいのかがよくわからない。


「ここら辺はまた湖三に訊くか」


湖三にもそういう経験があるとは思えないが、女ごころは分かるだろう。


「ねぇ都斗」


「ん?」


何だ?いきなり声が低くなったぞ。


「二人だけの時に他の女の名前出さないでね」


相変わらず独占欲が強いことで。


「そ、それよりも衣珠季はどこに行きたいとか希望あるのか?」


「そうだね、夏と言えば定番の海とか行きたいかも」


「海か...」


ここら辺に大きな海はないな。


ここだけの話俺はあまり海が好きじゃない。


「あとはどこかにキャンプしたりしたいな」


キャンプもあまり好きじゃない。


「...もしかして都斗、あんま乗り気じゃない?」


「そ、そんなことないぞ」


危ない危ない。


顔に出ていたか。


「でも海とかはちょっと明日とかじゃ無理だな」


当然近くにある海を探すところから始まるため、すぐには見つからない。


「確かに。だったら最初の方は新岡千駅とかで遊ぶ?」


響と遊んだところか。


あそこだったら退屈はしなさそうだな。


「そうか。じゃあいつ」


「明日」


即答かよ。


まぁ俺も夏休みは特に用事がないから別にいいが。


「分かった。じゃあ明日とりあえず新岡千駅集合でいいな?」


「うん、でも時間は私に決めさせて。そーだな、朝の七時とかどう」


早過ぎである。


「...せめて九時とかでどうだ?」


「それだったら平日よりも都斗と一緒にいられる時間減るじゃん」


「そりゃそうだが。でも七時あと俺が起きられないこともあるぞ?」


「大丈夫。都斗が私との大事なデートの日に寝坊するなんてないって信じているから。もし寝坊なんてしたら...」


「...その先は言わんでいい」


仕方ない。こうなったら今日は早く寝るしかないか。


「分かった。明日は朝七時に新岡千駅集合でいいんだな」


「うん、絶対寝坊なんかしないでね...?」


分かったからその笑ってない瞳やめろ。


「それじゃあ明日ね都斗。私もいろいろと準備することがあるから」


多分弁当とかだろ。


飲食店やフードコードもたくさんあるから別にいらない...とは言えなかった。


俺は最寄り駅で降り、そのまま自宅に向かって歩いていく。


「ん?」


歩いている途中にスマホが震えた。


「...なんかこの状況前もあったな」


嫌な予感がしてきたぞ。


もし予感通り”あいつ”からだったらどうする?


久しぶりに声を聴きたいという気持ちもあるが、あんなことが起きてからだとどうしても躊躇してしまう。


「あれ?湖三」


電話の名前を見ると湖三菜草と書いてあった。


ちょうど俺も湖三に訊きたいことがあったので好都合だと思いためらいなく電話に出た。


「...っ...っ」


だが、いざ電話に出ても湖三の声は聞こえてこない。


「湖三?どうした?電話なんかしてきて」


「...っ...っ」


問いかけてみても無言のままだ。


いや、なんか息が飲むような音がしている。


「湖三?大丈夫か?」


「...つ、月城」


ようやく言葉が発せられたが、なんだか焦っているように感じる。


「あ、明日ちょっと会えない?」


「え?明日?」


湖三から会わない?なんて言われるのは初めてだ。


でも参ったな。明日は衣珠季との先約がある。


「どうしても明日じゃなきゃダメか?」


「...うん、ちょっと私にもいろいろと都合があって」


...やっぱり様子がおかしいな。


衣珠季には悪いが明日は湖三を優先すべきだ。


「分かった。それじゃあ明日どこへ行けばいい」


湖三から集合場所と時間を聞く。


「あ、このことは誘った私が直接衣珠季に謝っておくから月城は何も連絡しなくていいよ」


「いや、それは」


「あと、明日はその場所に着いたらスマホの電源は切っておいてね」


「え?あ、湖三!」


電話が切られる。


「いったい何なんだ」


こうして俺は夏休み初日は湖三に会うという選択肢を取った。


...これが罠だとも知らずに。

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