駒作り

「じゃあまたね桐生さん」


「うん、またね夏木ちゃん」


笑顔で手を振りながら夏木ちゃんを見送り。


「はぁ~。やっと行ったか」


あまり仲良くなった初日にこんなこと思いたくないが、歩く速度遅すぎでしょ。

夏木ちゃんと帰っている途中ずっとイライラしていた。


「なんか発言もいちいちばかそうだったしなぁ~」


あの進学校で有名な天下の正徳高校も所詮はこんなもんか。


それとも私のレベルが高すぎるのかな?


だとしたら全部都斗君のおかげだね。だから一刻も早くあの女を地獄に突き落とさないと。


「そのために...」


夏木ちゃんに教えてもらった佐賀暮多鶴の電話番号を打つ。


コールが四回鳴る前に相手は電話に出た。


「...もしもし?」


随分生気のない声だ。


それもそうか。あんな噂学校中に流されたら誰だってこんな風になるよね。


「えーと。佐賀暮多鶴君の電話であっていますか?」


できるだけ明るく振舞う。


「...そうだけど」


「私ば桐生響と言います。今日から佐賀暮君と同じクラスメイトになります」


「...悪いけど俺はもう学校に行く気はないんだ。いちいち声を掛けてもらっても困る」


これはだいぶ参っているな。


ここはちょっと仕掛けてみようか。


「佐賀暮君は不登校になったと聞いたけど、それはなんで?」


「あ?お前に関係ないだろ」


どうしてこういう馬鹿はすぐ喧嘩腰になるのだろうか。


ちょっとイラっと来たので少し意地悪してやろ。


「...タツ君」


「...は?」


「タツ君が悪いんだよ。私を捨てて千宮司さんと付き合ったんだから」


「...やめろ」


「だからタツ君に私がやったことを責める資格はないよ」


「やめろよ」


「だからこれからどうぞ千宮司さんと仲良く地獄に落ちてください」


「やめろって言ってるだろおお!」


あーちょっとこれはやりすぎちゃったかな。


「どう?夜桜衣珠季のことを思い出した?」


「...お前は、いったい何なんだ」


よしよし食いついてきた。


「まさか衣珠季に頼まれて俺に復讐でもしようってか!はっ!どこまでもねちねちした女だな!」


「そんなわけないじゃない」


「...え?」


「佐賀暮君、たとえ噓でも私とあのドブ女が仲間みたいな言い方やめてくれる?ムカつくから」


「......」


あ、いけないいけない。あの女に対するアレルギー反応が出てしまった。


「...だったらお前の目的は何なんだ?」


「その前に私の話を聞いてくれない?」


「お前の話...?」


「私ね、今までずっと好きだった男の子がいるの。その子も本心では私のことが好きだった。でもある日、夜桜衣珠季とかいうクソ女が転校してきて私たちの関係を切り裂いたの」


話しててあの女の顔が浮かんでくる。


「正直言って私は一回あの女に敗北した。だからこうして転校までしてきた」


そう。私は一回負けた。そこは認めてあげる。


「でも勝ち逃げなんて絶対させない。地獄の底に突き落として、私があの子を守る」


そう、時間がない。


このままだと都斗君があの女に完全に汚されてしまう。


「.....っ」


佐賀暮君が私の殺意のあふれた声に絶句している。


でも、アンタも十分悪いんだからね。


アンタがあのクソ女とずっと付き合っていたら、あいつが明善高校に転校することもなく、今頃は都斗君と恋人関係に慣れていたのに。


「...それで」


「ん?」


「それで、お前は俺に何を望む?」


流石正徳生、話が早い。


「佐賀暮君、単刀直入に聞くけど、衣珠季ちゃんが憎い?」


「......」


すぐには答えない。


どこまでヘタレなのこいつ?


「正直に言っちゃいなよ。今アンタと千宮司彩華がこんなことになっているのは衣珠季ちゃんのせいだって」


「...ああ、こうなったのも衣珠季があることないことあの掲示板に書いていたからだ」


やっぱりちょっと盛ってたんだ。


性格悪いね。あいつ。


「...ちょっと痛い目に合わせたいって思わない?」


「...思う」


やっぱりクズ男はチョロいね。


てかクズ男とドブ女だからやっぱり佐賀暮君と衣珠季ちゃんって相性合うんじゃない?


「じゃあさ」


ここで私はあのクソ女を絶望させるための作戦をクズ男に話した。

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