準備

「正徳高校...正徳高校...」


都斗君に捨てられたたあの日、私は徹夜で正徳高校に関する情報を集めていた。


もちろん都斗君を私から奪った衣珠季ちゃんを徹底的に地獄に叩き落とすためだ。


「正徳高校裏掲示板...」


探し続けて四時間、私はようやく正徳高校の現状を確認できる裏掲示板を見つけたのだ。


「くだらないことばっかり...進学校でもこんな程度か」


ようやく見つけた掲示板には本当にどうでも良いことばかり書かれていた。


彼氏彼女募集中だの、だれだれのことを何年何組のだれだれが狙っているだの、校長うざすぎだの本当にくだらないことばかりだ。


「...少し前の方の奴も見ておくか」


それにしても大勢の生徒が使っているというのがよくわかる。


書き込みが一日に何件もある。


進学校になるとよりストレスもたまりやすいものなのか。


「どれだ...どれだ」


何か衣珠季ちゃん関連の書き込みを探そうとしているが、いくら何でも生徒たちの書き込みが多い。


「どれだけストレスたまってるんだよこいつら」


ちなみにこの書き込みはすべて匿名性なので、誰でも好きなことが書ける。


「...こんなことだったら明善高校の裏掲示板でも見つけて、衣珠季ちゃんのあることないこと書きたかったな」


明善高校のどれぐらいの生徒が異様しているか分からないが。


いや、そもそも裏掲示板という存在があるのかも疑わしい。


「...こうなったら」


私は直接検索欄に夜桜衣珠季と入力することにした。


だが、さっきも説明したようにこの掲示板は完全な匿名性のため、個人名を検索することにあまり意味はないと思うが。


「ん?これは」


だが奇跡的に一軒だけが引っかかった。


その内容は


”私は一年二組の夜桜衣珠季と言います。私は同じクラスの佐賀暮多鶴君と幼馴染で付き合っています。付き合っている間、タツ君に無理やり性行為を強要されたこともあります。

この前偶然タツ君と同じクラスの千宮司彩華さんが仲よさそうに歩いていたので、思わず問いただしたらタツ君にお前に飽きたと言われ捨てられました。そのことが悲しすぎてとてもじゃないですが学校に登校することができません”


と、こういうものだった。


まず私がこの投稿を見て感じたのが、ちょっと盛っているという点。少なくてもこの無理やり性行為を強いられたという点は嘘であると感じる。


性行為を強いられたと言いているが具体的にどんな経緯で、どこで、どのようにして、が書かれていない。


だが同時に完全な被害者と思わせるような書き方は素直に凄いと思う。


この佐賀暮多鶴をタツ君と呼んでいることから、普段どれほど仲が良く、捨てられた時にどれぐらいの気分ななるかがよく共感できる。


最も私は少しも共感しないが。


「...つまりこれは自分のことを捨てた幼馴染への復讐」


なんだだあの女。


無害そうな顔して結構えぐいこと考えるな。


「こんな女と一緒にいたらいつか都斗君にも不幸が訪れる」


もちろん今回の件は全面的にあの女が悪いとは言っても、都斗君には直接面と向かって私を捨てると言い放った大きな罪がある。


その罪を裁いて許してあげるのが私の役目。


そのためにもあの女には一刻も早く地獄に落ちてもらわなくては。


「...コメントは全面的に擁護するような内容か」


この掲示板は投稿にコメントを書くことができる。


衣珠季ちゃんの投稿には同情の声や佐賀暮多鶴を罵倒す寮なコメントしかない。


それも当然だが。


この後の佐賀暮と千宮司を知りたいのだが、残念ながらそのことについての投稿はない。


こればかりは自分が直接学校に行き確認するしかない。


「それにしても」


千宮司彩華。


どこかで聞いた覚えがないはずがない。


いちいち言う必要もないが当然あの戦犯...じゃなくてあの生徒会長だ。


「妹がいた?」


当然ただの同じ苗字である人物という可能性もあるが、千宮司なんて苗字はめったにない。


ただ、あの先輩の性格からして、正徳高校に通っている妹がいあたら自慢してくるはずだが。


千宮司先輩に妹がいたなんて話すら聞いたことがない。


「まぁまずは正徳高校に転校することが最優先だね」


...と、ここまでが私が正徳高校に転校することを決意したまでの話。


「その佐賀暮君と千宮司さんは二学期から復帰できそうなの?」


「...どうだろう。あの二人だいぶ精神的に参っていたからこのまま退学というのが濃厚だと思う」


それじゃ困る。


「でも、私せっかくこのクラスに転校したんだし、できれば全員と仲良くしたいよ」


「...桐生さん」


「ねぇ夏木ちゃん、どうにかしてその二人と連絡ができる方法ないかな」


こんな風に食いつけば、当然怪しまれるがこの夏木ちゃんは多分頭が弱いからそんなことはないと思う。


「...わかった。桐生さんがそこまで言うなら」


夏木ちゃんが携帯を取り出す。


「あの二人とっくにクラスLINE抜けちゃったんだけど、席も近かったから一応連絡策は残しておいたんだ」


そう言うと夏木ちゃんが二人の電話番号を見せる。


「さすがに電話番号まではすぐには変えられないと思うからきっと出ると思う」


「夏木ちゃん、ありがとう」


「いいよ。私もできればあの二人には学校に復帰してほしいと思っているし」


多分夏木ちゃんは私が二人に学校に登校するよう説得すると思っているんだろうね。


確かに”以前の私”だったらそうすることも可能だったけどね。


「そういえばさ、さっき言っていた転校生のことだけど」


「夜桜衣珠季、でしょ」


私は憎しみがこもった声でその名を口にした。

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