舞台
「桐生響です。これからみなさんと仲良く学校生活を送っていきたいです」
私がそう自己紹介すると拍手が響き渡った。
こうして前に出て拍手されるとちょっと照れるな。
転校初日の衣珠季ちゃんの気持ちがよく分かった気がする。
「え~と、桐生さんの席は...隣がいないけどあの一番奥の席でいい?」
「はい、わかりました」
先生に指定された座席は一番奥の廊下側の席だ。
窓側の席だと、また都斗君と衣珠季ちゃんの三人で仲良くしていたころを思い出してしまうので、廊下側の席になったことはありがたい。
私の隣の二席は空席となっている。
「桐生さん、かな?よろしくね」
「よろしく、え~と」
「私は
「夏木ちゃん、よろしくね」
前の席の子が話しかけてきた。
相手は私のことをさん付けの苗字で言ったが、私はあえて最初からちゃん付けで名前を言うことにする。
「桐生さんはどこの高校から来たの?」
「明善高校だよ」
「明善高校?ここらへんじゃないのかな?」
やっぱり正徳高校ほどの進学校になると明善高校なんて眼中にないらしい。
「ちょっと前にうちのクラスから一人転校しちゃったからさ」
「へぇ~、正徳高校みたいな進学校でも転校する人っているんだね」
「まぁ~その子についてはいろいろと複雑な事情があるんだけどね」
「...そうなんだ」
正徳高校も明善高校と同じく、期末テストは終了しているため、午前中で授業が終わる。
「よし、じゃあテストを返すぞ」
午前中は事業とは言ってもほぼテスト返しだが。
まずは数学のテストが返される。
「よし、何とか50点取れたね」
夏木ちゃんが独り言のようにつぶやく。
黒板には平均49点と書かれていた。
「えーっと、ここって進学校だよね」
「ん?まぁ世間体で見たらそうだね」
私は不安になり夏木ちゃんに確認を取る。
クラスの平均が50点を下回るなんて今までの人生で経験したことがなかった。
「...もしかして桐生さん平均49とか低!て思った?」
「...うん、思った」
馬鹿にされて怒っているという雰囲気ではなく、自虐ネタのように夏木ちゃんがしゃべりだす。
「確かに私含めこのクラスはバカしかいないけど、でも問題も結構むずいんだからね」
夏木ちゃんに問題様子を見せてもらう。
「...うーん、高校一年生なら解けて当然じゃないかな?」
「え?この範囲まだ習ってないけど」
「夏木ちゃん、学校で習ってないからできなくて当然っていう考え方は受験敗北者の理論だよ」
「...桐生さん、可愛い見た目して結構言うね」
それからもいろいろ中目のテスト返しが行われた。
どれもこれも意外とレベルが低くて正直びっくりした。
余談だが、私が高校受験の時に死亡していた高校は当然正徳高校よりもレベルが高い。
「桐生さんは電車通学?」
「うんうん、歩いて通っているよ」
「珍しいね」
夏木ちゃんに聞いたところ、歩いて通っている人は全体の二割にも満たないらしい。
「へぇ~明善高校ってそんなところにあるんだ」
「明善高校はさすがに電車通学で通っているよ」
夏木ちゃんは電車登校のため、一緒に歩いて帰っている。
「え!?桐生さん生徒会に所属してたの!?」
「所属してたって言っても役職はなかったよ」
「でも一年生から生徒会に入るとか結構勇気いるじゃん」
「確かに最初生徒会長に会った時は緊張したね」
今でもあの戦犯野郎の顔が浮かんでくる。
「そんなに美人で頭もよくて生徒会に入っていたりしたら彼氏の一人や二人いたんじゃないの?」
「......」
私は何も答えない。
「え、えーと」
私が突然沈黙したため夏木ちゃんが必死に話題を変えようと頑張っている。
まぁこうなったのは私のせいだから私が話題を振ってあげよう」
「そういえば私の隣の席って二席とも空席だよね」
「え?あ、そ、そうだね」
「あの席の人たちは転校しちゃったのかな?それとも最初っからいなかったの?」
「いや、今も一応学校に在籍してるんだけど...」
夏木ちゃんが言葉に詰まっている。
「実はあの席に座っていた”
「......」
「ご、ごめんね。転校初日にこんないやな話しちゃって」
「うんうん、訊いたのはこっちなんだから気にしなくていいよ」
そう、気にする必要は全くない。
なぜなら今夏木ちゃんが言ったことにこそ私が正徳高校に転校した理由があるのだから。
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