突然の別れ

祝日明けの火曜日。


俺は今日も衣珠季と一緒に登校した。


「でも湖三さんがあんなに可愛い子だとは思わなかったよ」


昨日、俺と響が二人であっていたように、湖三と衣珠季も二人でどこかに遊んでいた。

話を聞く限りどこかの遊園地みたいだが。


「お化け屋敷に入った時もずっとビクビクしててね、横からいきなり髪の長い女の人が出てきたときなんて思いっきりキャー!って叫んで抱き着いてきたよ」


まさかあの湖三にもそんな一面があったとは。


「ジェットコースターに乗っていた時にはもう恐怖のあまり泣いていたしね」


「...そうなんだな」


衣珠季がこんなに楽しそうに話しかけてくるが、俺は適当な相槌しか打てない。


それはもちろん昨日の響のことだ。


最後に見せたあの響の目が忘れられない。

思い出しただけでも寒気がする。


「...都斗?どうしたの?今日は朝からあんま元気ないけど?」


「い、いや、ちょっと昨日用路側までゲームしてたからさ、寝不足なんだよ」


「...ふーん、ゲームね」


衣珠季がちょっと怪訝そうな顔をしてきた。


「そ、それよりもこれで衣珠季と湖三は仲良くなれたのか?」


「うん、ちょっと湖三さんは照屋さんなところがあるけど、もう友達と言えるぐらいには発展したよ!」


よくよく考えれば、俺もクラスで仲がいい女子は、響と衣珠季を抜いて湖三ぐらいしかいなかったな。


そんな会話をしていると学校が見えてきた。


「......」


ちょっと緊張する。


これから響に会わなくてはならない。


心の中で本当は響が来ていないことを願っているのにも気づいている。


今まではあんなに共に過ごしたのに。


今では響と会いたくないと思っている。


いったい俺たちはどこで間違ってしまったんだろうと物思いにふける。


校門に入ると見知った人物が立っているのに気が付く。


「おや、月城君に、桐生君じゃなくて夜桜君か」


千宮司先輩が立っていた。


もうテストが終了したので朝の挨拶運動を再開しているんだろう。


響と間違われたことで衣珠季の機嫌が少し悪くなる。


「おはようございます。千宮司先輩。響ちゃんじゃなくて悪かったですね」


「気を悪くさせてしまったか?だとしたらすまない。つい本心で言ってしまった」


なんであえて煽る!?


「千宮司先輩、まだ響は来ていないんですか?」


「彼女の前で別の女の子を心配するなんて月城君も悪い子だねぇ」


「い、いやそういうわけでは」


「......」


衣珠季が無言の圧をかけてくる。


「冗談だよ。確かにまだ桐生君は登校していないよ。先ほど君たちのクラスにも足を運んでみたが彼女の姿はなかった」


「...そうですか」


今俺は何を思っている?


響がいなくて寂しい?それとも嬉しい?


「まぁでも彼女は休学中なんだろ?だったら今日投稿していた方がおかしい」


響が本当は休学なんかしていないってことは、俺だけが気づいている。


「仕方ない、桐生君がいない間は私一人で雑務をこなすとするか...」


「...言っておきますけど俺は手伝わないですからね」


「酷いなぁ。まだ何も言ってないじゃないか」


「目がそう言っているんです」


正直個人的に千宮司先輩を手伝ってもいいと思っているが、衣珠季が許してくれそうにない。


「じゃあ俺たちはこれで」


「ああ。桐生君が復帰したら生徒会に顔を出すように言っておいてくれ」


おそらく今の響は生徒会の仕事をするほどの気力はないと思うが。


教室に入る。


俺の隣を見るとやっぱりまだ響は登校していないみたいだ。


「あ、湖三さんおはよう」


「お、おはよう」


衣珠季が元気よく湖三にあいさつして、湖三も照れながら返す。


「......」


二人がそんなやりとりをしている中、俺は窓から校庭を見つめていた。


もちろん響が来るか来ないかの確認だ。


白状しよう。俺は今心の中で時間が早く過ぎてくれと祈っている。


できればこのまま響が来ることなく今日がスタートしてほしいと。


響を裏切るような思いを抱いていた。


それから10分ぐらいするとホームルームのチャイムが鳴り、先生が入ってきた。


結局、響が登校してくることはなかった。


「えーっと、朝のホームルームを始める前に大事な話があります」


教室中がざわつく。


先生がいつもこんなに真剣に話すことはそうそうないからだ。


「このクラスメイトであった桐生響が、急遽転校することになりました」

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