決別
「...ど、どうかな都斗君?」
俺が長い間無言だったため響が返事をするように促す。
「ひ、響」
「は、はい」
「ありがとう」
「...うん」
俺がそう言うと響はとっても嬉しそうに頷く。
「今まで響にはとてもじゃないけど恩を返しきれないことをたくさんしてもらった」
「そ、そんなことは」
「とても感謝している」
「......」
俺も真剣なまなざしで響と向き合う。
「響がいなかったら今の俺は存在していなかった。響が俺をここまで成長させてくれた」
「...都斗君」
「だから今一度ここでそのお礼を言わせてくれ。響、今まで本当にありがとう」
「......」
響は黙っているが、顔から泣きそうなのが分かる。
おそらく嬉し泣きだろう。
「でも」
「...え」
ここから先の言葉を紡ぐのは辛い。
だが、それでも俺は今の自分の想いを響に言わなければならない。
「でも俺は、衣珠季を救うことを選んだ」
「え、ちょっと」
「衣珠季を過去の暗闇から救い出すことを選んだ」
「なにを...」
「そして、衣珠季を愛することを選んだ!」
「なにを言っているの都斗君!」
響が泣きながら叫んだ。
「なんで...なんであの女を選ぶの!?」
「...俺が衣珠季を救ったからだ」
「じゃあなんで救ったの!?」
「......」
「いやだ...都斗君が私を選ばないんて...」
「...響」
「いやだ...いやだ...いやだ...いやだ...いやだ...いやだ」
普段の明るい響とは思えないほど、感情を露わにしている。
「私、都斗君のために親を裏切ったんだよ...?」
「......」
「都斗君が明善高校に進学するって聞いたんだから、わざと志望校に落ちたんだよ」
そのことは何となく予想していた。
響と明善高校とじゃ釣り合わない。
「なのになのに!...私を捨てるって言うの...?」
「......」
ここで響につられて何かを口にするのは逆効果だ。
俺はただ衣珠季を選ぶと響に伝えただけでもう何も言う必要はなかった。
「私を捨てて、あんな女を選ぶって言うの...?」
「......」
「今まで一緒に過ごしてきた時間はなんだったの!?」
「......」
「私はこんなにも..こんなに都斗君のことが好きなのに...!」
「......」
「黙ってないで何か言ってよ...言えよ!!」
「っ!?」
怒鳴られてビックリする。
今まで響が誰かに対して怒鳴る姿は見たことがなかった。
「今までさんざん面倒見てきてやったのに!すべてをささげたっていうのに!!私を捨てるのか!!!」
「ぁ」
叫び続ける響を前にして、無意識の内に後ずさりをする。
「...ぁ、ご、ごめん。いきなり怒鳴っちゃったりして」
そんな俺の様子を見て、正気に戻る。
「...っ」
それでもまたいつ響が豹変するかわからない。
今は一刻も早くこの場所から逃げるのが得策だ。
「ねぇ..なんで逃げようとしてるの...?いやだ...そんなおびえるような目で私を見ないで...!」
「...っ」
そう言っているうちにどんどん響との距離は離れていく」
「ね、ねぇちょっと待ってよ!ほ、本当に私を捨てるの...?」
違う!と言おうとしても声が出ない。
「許さない」
「え?」
今度はさっきまでとは違う。
低くて重い口調でしゃべり始めた。
「許さない...許さない...許さない...許さない」
「ひ、ひび」
「私を裏切ったお前を...絶対に許さない」
その時の響の目は、充血していてまるで俺を呪い殺すかのように睨みつけていた。
「ああああああああああああああーーーー!!!」
気づけば俺は恐怖のあまり叫び、教室から飛び出していた。
そのまま無我夢中で家を目指す。
家の中に入るとただいまも言わずに急いで自室まで駆け上がる。
もしかしたら響が家まで追ってくるかもしれない!
そう思うと震えが止まらなくなる。
俺はベットの中にでうずくまる。
今日はおそらく夕食を食べることも風呂に入ることもできないだろう。
ただこうして一日が過ぎるの待っているしかない。
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