決意

「ずっと君のことが好きでした。私と付き合ってください」


そうまっすぐな目で告白してきた。


「......」


その言葉を聞いて、この教室で初めて響を見て一目惚れしたことがフラッシュバックされる。


「......」


その横顔を見た時、心の中で今まで感じたことのない感情が溢れてきた。


「......」


周りが無になったかのように静かになった。この空間には自分と彼女だけが存在しているような気持になった。


「......」


目の前の彼女のことしか考えられなくなり、頭の中から他のことが消し飛んだ。


「......」


今すぐにでも話しかけたい。彼女と触れ合いたい。彼女のことを知りたい。


「......」


そう思っていると無意識に彼女に話しかけていた。


「......」


彼女の名前は桐生響。確かに彼女に会っている名前だと思った。


その日から俺の恋が始まった。

学校ではいつも響とともに過ごし、しばらくすると休日も一緒に過ごすようになっていた。


「......」


彼女とともに過ごしている時間はずっと響に惹かれていて、彼女のことだけを考えていた。


「......」


受験とともに響との別れの時が近づいてきた。


響は俺とは比べ物にならないほど勉強ができるため、俺と同じ高校に来るはずないと思っていた。


「......」


響はつきっきりで俺の勉強を見てくれた。

結果、見事それなりに偏差値が高い明善高校の推薦を取ることができ合格した。


だが、俺の気持ちは全く晴れてなんかいなかった。


もうその時には響が俺じゃ足元にも届かないような高校を受験すること、そしてほぼ100パーセント合格できることを知っていた。


響の受験当日、俺はわざわざ響の家まで来てエールを送った。


だが家に帰ってくるとその日は一日中泣いた。


響と離れたくない!そう心の中で叫び続けていた。


もしかしたら声にも出していたかもしれない。


「......」


自宅学習期間が開け、卒業式練習のため学校に来ると、響が志望校に落ちたこと。


そして俺と同じ明善高校に進学することを知った。


響はあまり悔しがった様子はなかったが、一応何かしらの言葉をかけて励ました。


だが俺は本当は心底喜んでいたのだ。


これでまた響と一緒に学校生活を送れると。


「......」


ああ、長かった。


俺が一目惚れしてからこうして響に告白されるまで。


「...お」


のどから言葉を吐き出す。


「...おれ」


やっとだ。


これでようやく響と俺との間に真の愛が生まれる。


「...おれも」


さっさと”俺もずっと響のことが好きだった”と返事をしよう。


「...俺も響」


さぁもう少しだ!


「...俺も響のことが」


”ずっと好きだった”と言おうとしたとき今度は違う声が俺の頭の中に響いた。


何だこの声は?聞いたことがないぞ。


だがその声は、俺の声に酷似していた。


”俺は胸を張って絶賛する。お前は泣き寝入りという選択を選ばなかった勇敢な女なんだ”


どこかで発した覚えのある言葉。


すると今度は響とは別の女子の声が聞こえてきた。


”私、いいのかな。また誰かを好きになってもいいのかな”


ああそうだ。


響とずっと一緒に過ごすと決めていた高校生活の中で、俺は一人の女の子と出会ったんだ。


その女の子は初恋の幼馴染に捨てられて、悲しそうにしてた。


その子を見て俺はとにかく助けてやりたいと思った。


それと同時にこの子の大切な存在になりたいと思った。


だから迷いなく”好きだ”と言えたんだろう。


「......」


湖三に言われた言葉を思い出す。


”あの子は自分を救ってくれたアンタが消えたらまたすぐに壊れてしまう。壊れないように一緒にいるのがあの子を救ったアンタの責任”


そうだ。俺には衣珠季を救ったという責任がある!


「......」


俺は先ほどまで出かけた言葉をのどの奥に引っ込めた。


ごめんな響。


ずっとお前と一緒にいて、俺もお前に恋心を抱いていた。


それなのに違う女子に目移りするなんてな。


俺は最悪の浮気野郎だよ。


これじゃ衣珠季のことを捨てた幼馴染となんも変わらないな。


「......」


だけど


だけどそれでも俺は...!


「......っ」


衣珠季を救った責任を取り続けなければならないんだ!

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