最初で最後の告白
「ここに来るのも一年ぶり...というわけでもないか」
俺は今以前通っていた中学校の前に来ている。
中学校は電車通学ではなく徒歩でも通えるぐらい近くにあった。
「それにしても改めて見ると私立と公立の差って激しいんだな」
今は私立の明善高校に通っているが、中学は普通に公立に通っていた。
最初に明善高校に来たときは、中学校とは大違いの設備の良さにびっくりしたが、今ではもうそれが普通だと思っている。
しかし、こうして公立の中学校を見ると全然普通じゃないことが分かった。
「あ、都斗君!」
待っていると、遠くから手を振る響の姿が見えた。
「ごめんね、ちょっと準備が長くなっちゃった」
「気にするな。俺も今来たところだ」
前とは逆である。
「それで響...本当に今日はここでいいのか」
「うん。やっぱり都斗君との思い出に浸れる場所と言えばここだもん」
「...そうか」
テスト前に俺は響に遊ぼうと誘われた。
その時はてっきりまた新岡千駅みたいな中心街で遊ぶと思ったのだが、まさか母校の中学校に集合だとは思わなかった。
だが今にして思うと響のこの発想に助けられたかもしれない。
というのも、今日は衣珠季と湖三もどこかで遊んでいるのだ。
もし今日も新岡千駅で遊ぶとなったら鉢合わせになる可能性があったのだ。
「じゃあ早速中に入ろうか」
「でもいくら卒業生だと言っても勝手に入っていいのか」
「それなら心配ないよ。もう電話でOKもらっているから」
流石響、相変わらずコミュニケーション力が高い。
校舎の中に入ると、まずは下駄箱が目に入る。
「高校は教室の後ろにロッカーがあるからなんか下駄箱を見るのも懐かしいよね」
「そうだな」
ちなみに俺は一回上履きを盗まれたことがあるので下駄箱にはあまりいい印象は抱いていない。
「ここからは一年生の教室だよね」
確か俺と響は一年3組だったため、一番奥の教室だ。
「確か私があの窓の端の席で都斗君がその隣だったよね」
「そ、そうだったか?」
正直全く覚えていない。
座席まで覚えている響からすると俺の出会いは本当にかけがえのないものだったのだろう。
もちろん俺もそうだ。
「私がここで一人座っていると都斗君が話しかけてくれたよね」
「ああ。あの時は俺もとにかく友達が欲しかったから」
今の俺では絶対できない行動だ。
男子ならともかく初対面の女子に話しかけるなんて...
いや、違う。
確か俺は...
「ちょっと座ってみるね」
そう言うと響は自分な座席に座った。
ああ、覚えている。
俺は友達が欲しかったわけではなかったんだ。
ただただこの横顔に一目ぼれしたんだった。
「......」
響の横の座席に俺も座る。
そうだ。この横顔だ。
この横顔に見惚れて俺は思わず声を掛けたんだった。
「......」
「都斗君?」
「...っ!な、なんだ?」
「いや、さっきから固まっているけど大丈夫かなって...」
響が心配そうに俺の顔を見つめる。
「...っ」
どうしてだろう。
今響の顔を見るとどうしても心が落ち着かなくなる。
「...そ、そろそろ次の場所に行こうか」
「そうだね」
二人で教室を出る。
それから俺たちは次々に思い出の場所に足を運んだ。
二年生の教室、三年生に教室、体育館、プール、音楽室、家庭科室、多目的室。
それぞれを回るうちに響と過ごした楽しい思い出がよみがえってくる。
こうしてみると、俺の中学校生活のほとんどを響とともに過ごしていた。
確か、俺と響が付き合っているみたいな噂が流れたことも会ったっけ。
その時は周りにめっちゃからかわれたけど本当は嬉しかったのかもしれない。
俺は入学式の日に響に一目惚れしてからずっと好意を寄せていたんだ。
ただ響に好意を伝える勇気がなかったんだ。
そんなことを今屋上で響と夕日を眺めながら思う。
「そろそろ日が暮れてきたね」
「そうだな。もうそろそろ帰るか?」
「その前にもう一回最初に私たちが出会った教室に行ってみない?」
「?ま、まぁいいけど」
そうして俺たちはもう一回一年生の教室に戻ってきた。
教室に入ると、響が無言で自分の座席に座る。
それにつられて俺も無言で自分の座席に着く。
「......」
「......」
そこからしばらく無言が続く。
「...ねぇ都斗君」
「なんだ」
「今体温高い?」
「...ああ」
どうしてだろう。響の顔を見るだけで体が熱くなる。
もしかして俺はまた
「私もね、なんだかさっきから体が熱いの」
「え?」
「なんか今都斗君とこうして座っていると無性にドキドキしちゃう」
「......」
「......」
またしても数秒の沈黙。
「都斗君」
「なん」
だ?と言おうとして隣を見るとまっすぐ響がこっちを向いて新家に俺の目を見ながら言葉を紡ぐ。
「...ずっと君のことが好きでした。私と付き合ってください」
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