響視点の物語8

今私は朝の依頼の通り都斗君に公民を教えている。


「確かここは需要と供給が」


教えていて改めて思うがやはり都斗君は勉強が苦手みたいだ。

これは私が手取り足取り教えてあげなくちゃいけないかな。


ちなみにあの女は悔しそうに外に遊びに行った。


できればあいつに見せつけるようにこうして机をくっつけて都斗君に勉強を教えたかったが仕方ない。


あの女の悔しそうな顔を見ただけで満足だ。


「凄いね都斗君、この前教えた時よりも全然できるようになってるじゃん」


都斗君には悪いが今私が言っていることは完全な嘘だ。

正直に言えば全然できるようになっていない。


今都斗君に教えているところは中間テストが終わってからすぐ習ったところだ。


おそらくこのクラスの大半がもう完璧にできていると思う。


これは休日も教えてあげないとダメかな。


「まぁ授業中は寝ないでしっかりと聞いてるからな」


そう言う都斗君の顔はまるで事業中に寝ないことしか取り柄がないと言っているようだった。


だからそれを強く否定する。


「そんなことない」


「え?」


「都斗君の取り柄はいっぱいあるよ。都斗君自信は気づいてないかもしれないけど、私は都斗君の良いところいっぱい知ってるよ」


これは紛れもなく私の本心だ。


中学校から一緒にいれば長所なんていくらでも見つけられる。


「あ、ありがとう」


あ、都斗君照れてる。

そういう可愛いところも君の長所だよ。


「ううん、お礼を言いたいのは私の方。普段から都斗君は私を元気づけてくれるもん」


「で、でも響の良いところもたくさんあるぞ」


「え?」


「ほら、響はこうして丁寧にも俺に勉強を教えてくれてるじゃないか。中学の時からずっと」


「都斗君...」


「それだけじゃない。とにかくたくさんあるけどここで礼を言わせてくれ。響、いつもありがとう」


完全に不意打ちだ。


都斗君にそんなことを言われて泣かないという方が難しかった。


「......」


無言で必死に涙をこらえる。


もしこれが都斗君と私の二人だけだったら思いっきり泣けたが、クラスメイトがいる中で泣くわけにいかない。


それにここでもし私が泣いたらくだらない冤罪を都斗がかけられることになる。


「......」


「......」


そこからは私も都斗も少し感傷に浸って沈黙する。


「ひ、響?次はここの問題をお願いしたいのだが」


「あ、そ、そうだったね。えーっと、ここはドント式を使って...」


しばらくして勉強再開する。


そこからはまた初歩的なことを都斗君に教える。


「お、そろそろ自習の時間が終わるな。響、ありがとな」


授業狩猟時間に近づいた時、都斗君が机を戻そうとする。


「み、都斗君」


とっさに都斗君を呼び止める。


「よ、よかったらさ明日も二人で勉強しない?」


私の意志関係なく勝手に口から言葉が溢れてくるような感覚になっている。


「昨日日本史と世界史も教えてほしいって言ってたでしょ?だから明日も勉強しないかなって」


「まぁ響がいいならいいけど」


「...よかった」


よかったというか都斗君が断るわけない。


自分で自分を褒める。


やっぱり私は本能的に都斗君を求めているのだろう。


「あ、それなら」


都斗君が何かを言おうとしたが、第六感が聞いてはいけないと警告を流している。


「?何か言おうとした都斗君?」


だが都斗君が言おうとしたことを無視するわけにもいかず訊き返す。


「い、いいや何でもないよ。それよりも響、せっかく一緒に休日で出かけるなら勉強以外にもどこかで遊んだりしないか」


「いいねそれ!じゃ待ち合わせは新岡千でいいかな」


都斗君がここまで積極的になってくれるなんて...!


都斗君も私のことを本能的に求めているんだろう。


と、その時、教室のドアが開きあ音で遊んでいたグループが帰ってきた。


そこには当然あの女の姿もあった。


「どう月城君。勉強は進んだ?」


馴れ馴れしく都斗君に近づいて、その汚い口から言葉を発するな!


「ああ、響の教え方が上手なおかげでかなり進んだよ」


「ふ~ん、そうなんだ」


私の名前を出すとあからさまに不機嫌になる。


奇遇だな、私もだ。


「ねぇ、じゃ次の自習の時間は英語を勉強しない?」


対抗している気なのか?


「え?ああ、じゃよろしく頼もうかな」


相変わらず断るのが苦手だなぁ都斗君は。


だったらここは私が代わりに言ってあげる。


「...衣珠季ちゃん。あんまりそうやって無理に勉強を教えようとすると都斗君にプレッシャーがかかると思うよ」


「...それを言うなら響ちゃんも朝月城君に公民を教えるのを無理に勧めてたよね」


なんだ?私に喧嘩を売っているのか?


「そんな強要したなんて言い方やめてよ」


「事実してたじゃない」


本当にどこまでもムカつく女。


今度はいっちょ前に言い返してくるか。


「そ、そういえば二人とも、今日は昼食どうしようかな?学食?それとも購買?」


都斗君が慌てて私たちの間に入る。


もし今都斗君が仲介に入ってくれなかったら暴力沙汰になっていたかもしれない。


「購買」


「学食」


こうなったらとことんこの女と対立してやろう。

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