響視点の物語7

今日は放課後に活動があるが、朝はないため急いで都斗君の家に向かう。


家の前に着き、インターホンを鳴らして都斗君のお母さんといつもと変わらない会話をする。


おそらくまだ都斗君が出てくるまで時間があるので、少しはテスト勉強をしようと思い単語帳を開く。


「あれ?響ちゃん?」


単語帳に目を通そうとしたときに横から声を掛けられる。


最初はだれかと思ったが、考えてみれば私のことをちゃん付けで呼ぶのはあの女しかいない。


「響ちゃんがいるってことはこの家が月城君の家ってことだよね?」


なぜだ、なぜこの女がここにいる。


確かこの女の最寄りは東南駅だったはずだ。


なのになぜ!?


「響ちゃん、どうしたの?ずっと黙っているけど」


「...何でもない」


こうなったらあからさまに冷たく当たってやろう。


「それにしてもいつもこんなに朝早くから響ちゃんは月城君のこと待っているんだね」


「......」


「うん、響ちゃんの都斗君を大切に想う気持ちよくわかるよ」


「...っ」


いったいどの口が言っている。


「...なんで衣珠季ちゃんはここにいるのかな」


本当は口を利いてやる気はなかったが、これぐらいは訊いておきたかった。


「うーん、ちょっと恥ずかしいんだけど、私も月城君と一緒に登校したいかなーって」


「......」


訊かなければよかった。

そのちょっと恥ずかしがるしぐさとか、顔を赤くして答えるところとかホントにムカつく。


それからしばらく隣の女はくだらないことをぺちゃくちゃぺちゃくちゃ喋っていたが、どれも無視か適当な相槌しか打たなかった。


「え、えーっと、二人ともおはよう」


都斗君が出てきて挨拶をしている。


「あ、おはよう月城君」


「...おはよう都斗君」


都斗君には愛想よく挨拶をしたかったが、隣の女の存在が邪魔すぎてそんなところまで気を回せない。


「な、なんで夜桜がここに」


「?なんでってただ月城君を迎えに来ただけですけど」


もういいよこのやりとり。


「学校に向かう途中に岡千駅に降りて月城君の家を探していたら響ちゃんを見つけたの」


「そ、そうなのか響?」


都斗君にいきなり尋ねられたので慌てながらも答える。


「え、う、うん。都斗君の家の前で待っていたら衣珠季ちゃんがこっちに向かってきて...」


私にもこれぐらいしか分からない。


「さ、二人とも早く行くよ。結構ギリギリな時間だしさ」


会話が途切れると衣珠季ちゃんが率先して進み始めた。


この女が言う通り、少しいつもより時間がギリギリなので昨日みたいな早いペースで進む。


「今日も響ちゃん生徒会活動休みなの?」


どうせまた都斗君にくだらない話題でも振るのだろうと思っていたら、珍しいことに私に喋りかけてきた。


「う、うん。来週からテスト期間だからね」


「ふ~ん、そうなんだ」


せっかく答えてやったのにずいぶんつまらなさそうな反応を示すな。


「...もしかして衣珠季ちゃんは私に活動をもっとやってほしいのかな?」


癇に障ったので聞き返してやった。


「?別にそんなこと思ってないけど?なんだ?」


「だってそうすれば都斗君と二人きりになれるし...」


声が小さくなったのは都斗君に対する罪悪からだ。


「そ、そういえば響、今日の体育多分自習だろ?だからその時に今度は公民を教えてほしくて」


思いっきり話題を変える都斗君。


「あ、う、うん!公民は私も得意だし都斗君に教えられるぐらいの学力はあると思う」


都斗君に求められたことがうれしくて大声で答える。


「ふ~ん、今日は英語じゃなくて公民勉強するんだ...」


衣珠季ちゃんが悔しそうにつぶやく。


ふん、ざまぁみろとふてぶてしい笑みを浮かべて女の方を見つめる。


それを無表情で見つめる衣珠季ちゃん。


そういうところが気に食わないんだよなぁ~。


改札口を通り、電車に乗る。


「......」


「......」


「......」


電車にはマナーがあるので三人とも喋らない。


学校の最寄り駅に着くと、同じく少し駆け足になっている明善高校の生徒を何人か見つける。


「そういえば都斗君、今日の放課後生徒会活動があって、ちょっと人員不足だから都斗君にも来てもらいたいんだけど...」


このタイミングで切り出してみる。


「え?テスト期間が近いから活動は休みなんじゃ...」


「そ、それがね、千宮司先輩がちょっとプリントを整理したいけど人員不足だから都斗君にも来てほしんだってさ」


「そ、そうなのか。まぁ俺はなんも予定ないからいいけど」


よし!

厳密に言えば二人きりじゃないけど、千宮司先輩なんて眼中にないので実質二人きりだ。


「ねぇ響ちゃん。それって私も手伝ってもいいのかな?」


その時、私と都斗君の空間を破壊させるような言葉を衣珠季ちゃんは放った。


「いや、衣珠季ちゃんは来なくても大丈夫だと思うよ。私と都斗君だけで足りると思うし」


拒絶するように冷たく突き放すような言い方をするが、本当だったらもっと汚い言葉を使っていたかもしれない。


「響ちゃんは月城君と自分だけで足りると思っているかもしれないけどその千宮司先輩はどう思ってるか分からないでしょ?ボランティアということで手伝えに来ればあの先輩も喜ぶと思うんだけどな」


私が大丈夫だって言ったんだからおとなしく引っ込んでろよ!

どこまで私の邪魔をすれば気が済むの!?


「べ、別にいいんじゃないかな響。もしついてきて千宮司先輩が必要ないって言ったら俺と響だけで整理すればいいし」


都斗君。君のそういう優しいところは君の誇るべき長所だと思うんだけど、もう少し私の気持ちも理解できないかな?


「...都斗君がそう言うならいいけど...」


都斗君を非難することなどできるはずもなく、了承してしまう。


でもプリントの整理中に絶対この二人は近づけさせてやらない。

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