響視点の物語6
家に帰ると
「あら、お帰り」
珍しく母が玄関まで迎えてくれた。
「今日は随分早かったじゃない」
「...別に」
私になんか興味ないくせに。
出迎えなんかするな。
まだ何か言いたげだったが、無視して三階の自室に向かう。
三階に着くと、ちょうど部屋から出てきた妹、
「あ、お姉ちゃん。お帰りなさい」
「......」
私はこの心春が嫌いだ。
私と違って、桐生家の期待の星。
明らかに母親の対応は私と心春とで差がある。
「あ、あのね。お母さんも別にお姉ちゃんのこと嫌ってるわけじゃないんだよ」
何を言うかと思えば、母親が私のことを嫌ってないだと?
そりゃそうだろう。
まず嫌うほどの関心が私にはないのだから。
「あ、あと」
まだあるのか。
もう無視して部屋に入ろっかな。
「今度さ、私の志望校の正徳高校のオープンキャンパスに行くんだけど、保護者動員が必須でさ、お母さんは忙しいし、よかったらお姉ちゃん来てくれないかな?」
「...まるで私が暇人みたいじゃない」
「そ、そんなことは」
妹の返事を聞く前に部屋に入る。
「はぁーーーー」
疲れた。
今日一日はいろんな意味で本当に疲れた。
特にあの女に対して嫌悪感を抱くのに疲れた。
だがやめられない。
あの女の容姿、言動、しぐさ、存在すべてに嫌悪感を抱いてしまう。
しばらくベットの上で放心状態になっていたら千宮司先輩からLINEが届いた。
「...こんな時に」
LINEを開くと
「桐生君へ、明日の放課後生徒会室のプリント整理をしてほしんだ。できれば月城君も誘ってくれると嬉しいんだが」
「......」
いつもは戦犯的行動をとるが少しは役立つじゃないか。
まさか都斗君をこんなことで誘えるとは思わなかった。
「響ー、ご飯できたわよ」
一階からは母親の呼ぶ声が聞こえた。
耳障りだが、無視するわけにもいかない。
我が家では一階の食卓で全員で食事を食べることになっている。
全員とは言っても父は出張でほとんど帰ってこないが。
「......」
私は無言で箸を進めるが、心春と母は何かを話している。
耳にも入れたくないので、私は頭の中で都斗君ボイスを再生する。
「で、どうなの響?」
「え?」
気のせいだろうか。
今母から私の名前が出てきた気がするが。
「だから最近都斗君とはどうなの」
「......」
驚いた。
母から都斗君の名前が出たのはいつぶりだろうか。
「...別に」
だが母からその名前が出てくることは都斗君の侮辱に他ならない。
お前ごときに都斗君の名をかたる資格はない。
本当だったらよく昔の家庭みたいにちゃぶ台ひっくり返しでもお見舞いしてやりたいところだが、私にはそんな勇気も力もない。
だから情けないがこうしてぶっきらぼうに返すことしかできないのだ。
食事が終わると、心春が何か心配そうに私のことを見つめてきた気がするが、気づかないふりをする。
自室に戻り、少し勉強でもしようかなと思ったが、とっさにあの女の顔が浮かんできたのでそれどころではなかった。
ハサミで壁をつつく。
これが今の私ができる最高の気分の晴らし方だ。
だがどうしてだろう。
今日はこれだけじゃ収まらない。
私は気づくと枕にもハサミを突き刺していた。
「ああ...これはいいかも」
気持ちい。
枕を刺していると、まるであの女を刺しているみたいでとても気分が晴れる。
私は無我夢中で刺し続けた。
部屋中に羽が散らばるがそんなのは目に入らない。
「ざまぁみろ...これでお前はもう都斗に近づけないし見ることもできない」
この時は本当に枕があの女だと錯覚した。
「よかった。これで明日からはいつも通りだ」
満足してそのまま深い眠りについた。
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