響視点の物語4

「お、おはよう夜桜」


「おはよう衣珠季ちゃん」


一応挨拶は返しておく。


「あ、響ちゃんもおはよう」


昨日は”桐生さん”と呼んでいたくせいに一日で馴れ馴れしく呼び名が”響ちゃん”に変わっている。


嫌悪感で鳥肌が立つ。


「じゃちょっと私に学校案内をしてくれない?」


嫌悪感に包まれ茫然としていたら話が進んでいた。


「私まだ転校してから一日しか経ってないからさ、まだ全然この学校の構造とか知らないんだよねぇ」


白々しく目の前の女が学校案内をするよう促してくる。


「いいよ、衣珠季ちゃん、案内してあげる。都斗君もいいでしょ」


「あ、ああ」


正直今すぐ都斗君を連れて教室から出て行きたい気分だったが、この二人がどれほど親しくなったのかも気になる。


さっきの輝かしい笑顔からして相当親しくなったと予測できる。


とりあえず私たちはこの四階を回った。


四階には特に珍しい施設とかはなく、ただ一年生の教室が並んでいるだけであった。


だが、衣珠季ちゃんが馴れ馴れしく都斗君に話しかけているところは何度も見られた。


もうこれ以上この嫌悪感に包まれるのに限界を感じ


「そろそろホームルームの時間だね」


と言って無理やり切り上げることにした。


「そうか。もうそんな時間なんだ」


衣珠季ちゃんが残念そうにつぶやく。


このしぐさも癇に障る。


三人で教室に戻る途中


「響?なんかお前今日変だぞ」


都斗君がそう言ってきた。


流石私と長い間過ごしてきた都斗君だ。


私の少しの変化も見逃さない。


「みんなおはよう!」


教室に戻ると衣珠季ちゃんがみんなに明るく大きな声で挨拶をする。


皆転校生の豹変ぶりに驚いている。


私は嫌悪感しか抱かないが。


朝のホームルーム中に



「しっかしまさかここまで性格が変わるとはな」


「うん、そうだね」


「本当にここまで変わると別人みたいだよな」


「うん、そうだね」


都斗君が何かを喋りかけてくれているが、正直うまく会話のキャッチボールができない。


今日の一時間目は英語だがテスト範囲は終わっているため自習だ。


「......」


とりあえず演習問題を解いてみるが全然頭に入らない。


それにこの学校のレベルは私に適していないので、たとえ勉強しなくても高得点が取れる。


実際前回の中間テストもあんまり勉強しなかったがクラス一位を取れた。


隣を見ると全くペンを動かしていない都斗君がいた。


もうしょうがないなぁ都斗君は//


私が机を都斗の机にくっつけようとしたら。


「月城君、もしかして分からない問題とかある?」


あの忌々しい声が都斗君の隣から聞こえてきた。


「ああ、たくさんある、ていうかほとんど分からない」


「そうか、じゃ教えてあげるね」


二人が何を話しているかは聞こえる。


嫌でも聞こえる。


そして二人が机を合わして衣珠季ちゃんが都斗君に教えている声も。


その瞬間、ひょっとして都斗君に捨てられたのでは?という疑問を抱くようになった。


「月城君、響ちゃん、今日は私購買に行ってみたいな」


今日は衣珠季ちゃんから誘ってきた。


昨日とは真逆だ。


「響も購買にするか?」


「...うん、そうだね。昨日学食行ったから今日は衣珠季ちゃんに購買のことを教えてあげようか」


都斗君の問いにかろうじて反応できる。


三人で急いで一階の売店まで向かう。


この女と肩を並べて走るなど鳥肌が立つが、都斗君の前で取り乱すわけにはいかない。


購買に着くとまだ三人分の弁当は売り切れてなかった。


ベンチで座って食事をする。


この女と隣で食べたら今度こそ吐いてしまう気がしたため、都斗君を挟むように座った。


また都斗君と衣珠季ちゃんとの聞く価値のないどうでもいい会話が始まった。


比と撮り会話が途切れたことで、私は衣珠季ちゃんに質問した。


なんでこの場でこの女に質問したかは自分でも分からないが、しいて言えば本能的に質問したのだろう。


「ね、ねぇ衣珠季ちゃん」


「ん?どうしたの響ちゃん」


その首を傾げるしぐさにいら立ちを覚えたが、決してそれを顔に出さないようにした。


「きょ、今日はどうしたのかな?昨日と比べてずいぶん明るくなったみたいだけど」


自分でも何を聴いているのかわけが訳が分からなくなった。


「私は普通はこんな感じなんだけど昨日は転校初日でいろいろと緊張してあんな素っ気ない態度とっちゃったんだ。だからごめんね響ちゃん」


「......」


言葉が出ない。


でもね、昨日の帰りに月城君がそんな私のことを元気づけてくれたから今日はこんなに皆に明るく振舞えているんだ」


目の前の女がよくわからないことをほざいている。


私は女が言ったことを必死に理解しようとした。


「まだ五時間目まで時間があるし朝の続きしようか」


そこからのことはよく覚えていない。


覚えていないがまたあの戦犯野郎に会ったことだけは覚えている。

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