響視点の物語3

朝、また千宮司先輩からLINEが届いていたので、鬱な気持ちでメッセージを見てみた。


「桐生君へ、もうすぐテスト期間が始まるから当分朝の挨拶運動は休みにするよ」


内容を確認した瞬間、私は飛び起きて急いで学校の支度をした。


もちろん都斗君に会いに行くためだ。


学校の準備を最速で終わらせ、私は無我夢中で家を飛び出し都斗君の家を目指した。


インターホンを鳴らす。


「はい」


都斗君のお母さんの声だ。


「あ、お母さん。私です。桐生響です」


「あ~響ちゃんね。なんだか久しぶりねぇ」


中学の時に都斗君の家で何回も遊んだため、都斗君のお母さんとも仲がいい。


「ちょっと待っててね。今都斗起こしてくるから」


「はい、よろしくお願いします」


いつもこのやりとりから10分後ぐらいに都斗君が出てくる。


都斗君と登校できるなら何分でも待つつもりだ。


それに、昨日のことも都斗君の口から直接聞きたい。


10分ぐらい待っていたら都斗君が出てきた。


「おはよう都斗君」


「おはよう響」


いつも通り朝の挨拶をする。


だが私は今すぐ都斗君に抱き着きたいほど感情が高ぶっていた


それを堪えて、まずは昨日の生徒会活動のことを話した。


だが我慢できずに私はある程度世間話が終わると


「それでさ都斗君。衣珠季ちゃんとだいぶ仲良くなったって言ってたけど具体的にはどれぐらいの関係になったの?」


単刀直入に聞いた。


「え?」


返答に困る都斗君。


そんな様子も愛しいけど、今は早く答えてほしかった。


「まぁ普通に雑談をかわせるぐらいの関係だよ」


「あ、そうなの。よかった」


顔と言葉ではほっとするが、私は都斗君の嘘を見抜いている。


いったいどれだけ一緒に過ごしてきたと思っているのかな?


都斗君が嘘をつくときは一瞬目をそらすんだよね。


「そういえば夜桜めっちゃ明るくなって雰囲気が完全な陽キャになったんだよ」


「へぇ~。衣珠季ちゃんを一日で変えるなんてやっぱり都斗君のコミュ力は高いんだね」


嫌味のつもりで言ったが、都斗君は何のことかわかってない顔をしている。


そういう鈍感なところも相変わらず愛らしい。


「......」


だがその鈍感さを発揮するのも時と場合を考えてほしいというメッセージを込めて無言になる。


「そ、それにしてもさ、千宮司先輩ひどいよな。響に雑用とか押し付けてくるしさ。もういっそのこと今度のテストの学年順位最下位とかになればいいのにな」


とっさに話題を変えたけど、後ろにその当の本人である千宮司先輩に気づかないところも可愛いな。


「...私が何だって」


千宮司先輩が圧を含んだ笑顔で都斗君にそう尋ねる。


そこから先輩の都斗君へのダルがらみが始まった。


正直どういう会話をしていたかも聞いていなかった。


ただ、少なからず千宮司先輩にはすごくムカついているので


「おはようございます千宮司先輩。私たち急いでいるんで話はまた後にしてもらいますか?」


と冷たい挨拶をする。


「...へぇ~。桐生君がそこまで言うのはちょっと驚いたよ。どうしたんだい?今日は随分ご機嫌斜めみたいだけど」


「...別に何でもありません」


そうだ。


お前のせいだ。


お前が昨日私に雑務なんて押し付けるから!


しかもクーラーの掃除なんていつでもできるだろ!


と、口にできるほど私には度胸がないので口調で非難を表す。


「ほら行こう都斗君」


私はもうこれ以上戦犯の顔を見たくなかったので都斗君の手を掴み歩き出す。


「そ、それじゃ千宮司先輩、また今度」


「はぁ~。まぁ今日のところは桐生君の圧に免じて見逃してあげるよ。ただ月城君、人の陰口を言うときはもう少し声の音量を下げた方がいいぞ」


歩き始めてからもあの戦犯の声が聞こえたので、歩くペースが速くなる。


「ひ、響?もう先輩見えなくなったから手を放してくれてもいいんじゃないかな?」


都斗君に言われてようやく自分か力いっぱい都斗君の手首を掴んでいたことに気づいた。


「あ、そうだったね」


都斗君の手首を話すと手首が赤くなっていて、自分がそれをやったと思うと少し興奮した。


「それにしても響、今日は本当にどうしたんだ?なんでそんなに不機嫌なんだ?」


「え?そ、そんなに不機嫌だったかな...」


都斗君に指摘され、感情を抑えていたはずが全然抑えられていなかったことに気づいた。

「そ、それよりもちょっと早く着きすぎちゃったね」


「確かにな」


今度は私が話題をそらした。


いつの間にか校門の前に来ていた。


多分校舎の中にはまだ生徒はいない。


テスト期間が近いため運動部も練習をしていない。


つまり、今学校の中には私と都斗君の二人っきり。


このシチュエーションってまさかチャンス?


だがそのチャンスは教室の前まで来たところでなくなった。


「あれ?明かりがついているぞ」


教室のドアを開けると


「あ、月城君。待ってたよ!」


そこには輝かしい笑顔を放つかつての私のような存在がいた。

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