響視点の物語

高校に入学して、まず私が初めにとった行動は生徒会に入ることだ。


私は入学初日に生徒会室に足を運び、生徒会長である千宮司先輩に直接頭を下げてお願いした。


「本来ならばたとえ役職なしでもまずは演説して選挙をしてもらわなくちゃいけないんだけどね」


そんなことは分かりきっている。


「だが、入学してから一日もたっていないにも関わらずこの生徒会室に足を運んだ君の熱意は認めるよ」


この熱意は都斗君にもっといい女として見てもらいたいという願望からきているが。


「まぁ見ての通り生徒会も人手不足だからね。それじゃこれから生徒会役員として学校生活を送っていってもらおうかな」


「ありがとうございます」


正直私も初日から入れるとは思っていなかった。


「たださっきも言った通り、今は人手不足だから君にはたくさん働いてもらうことになるからよろしくね」


「はい!私にできることがあれば何なりとお申し付けください」


「お、気合入ってるねぇ。じゃ今から一つ仕事を頼もうかな」


「え?今からですか?」


まさか初日から仕事を頼まれるなんて思わなかった。


「当然だろ?だって君何でもお申し付けくださいって言ってたじゃないか」


「......」


何も言い返せない。


「それじゃちょっと三階の女子トイレを掃除してきてもらおうかな」


それから本当に女子トイレをある程度綺麗にするまで掃除をさせられた。


千宮司先輩はどうやら私のことが気に入ったらしく


「これは期待の新人が入ったねぇ。これからは私の左腕として活躍してもらうよ」


と言って私よりも早く帰っていった。


私が校門を出るときにはもう3時を過ぎていた。


今日は入学式だったため11時が下校時間だったので、もう校庭には誰もいなかった。


「え?」


いや、正しくは誰もいなかったわけじゃない。


「おせーよ響。もう腹減っちまった」


何と都斗が校門でお昼ご飯も食べずにずっと私のことを待ってくれていたのだ。


「...都斗君」


私は不覚にも泣きそうになった。


「ほら、さっさとそこらへんで何か食べようぜ」


「うん」


私たちは学校の最寄り駅周辺にあるファミレスで食事をした。


「へぇ~入学初日でもう生徒会に入ったのか。響も積極的になったな」


「うん。私も自分を変えなくちゃなーっておもって」


「まぁ確かに響もともと頭よかったもんな。そりゃ生徒会に向いてるわな」


「都斗君も十分向いてると思うよ」


「俺が?まぁ響が言うなら間違いないな。何だったら俺も入ってみようか」


「え?いいよいいよ!向いてるっていうのは冗談で都斗君は今まで通り気ままに学校生活を送る方が似合うよ」


「そ、そうか」


少しひどいことを言ってしまったという自覚はある。


だが、もし都斗君が生徒会に入ってしまったら、あの千宮司先輩に惹かれてしまうかもしれないという可能性は見過ごせなかった。


食事をしたら、そのまま二人で家に帰る。


「都斗君、高校も中学と同じようにさ、一緒に登校しない?」


「え?俺はいいけど...響はいいのか?」


「全然いいよ。何なら都斗君と登校っていうのは断るかもしれないけど」


「そ、そうか」


都斗君が一瞬躊躇するのもわかる。


高校は中学とは違い電車投稿なので、もし私が都斗君の家で待ち合わせするとなると必然的に中学の時よりも朝起きるのが早くなるのだ。


だが、そんなことは私には苦でも何でもない。


都斗君と一秒でも長く一緒にいたい。願いはそれだけだった。


それからは何日かは都斗君と登校で来ていたが、数日後の千宮司先輩のメールによって終止符が打たれた。


「桐生君へ、明日から朝の挨拶運動を行うことになったから、登校時間の40分前ぐらいには学校に到着してね」


思わずスマホを床に叩きつけそうになった。


40分前?それじゃ都斗君との登校はどうなるの?都斗君に40分前に起きるようにしてもらえってこと?


最初はそう都斗君に提案しようと思ったが、身勝手な女だと思われて嫌われてしまうかもしれない。


そう危惧した私はしぶしぶ都斗君に事情を説明してこれからは一緒に登校できないという趣旨を伝えた。


そして次の日、本当に40分ぐらい前に登校すると、千宮司先輩がもう校門で笑顔で立っていた。


「おはよう桐生君。しっかりと約束の40前に来たね。さすが私の左腕だ」


正直殴り飛ばしたかったが、何とか抑えて私も挨拶運動に加わった。


だんだんと生徒たちが登校していき、千宮司先輩が大きな声で挨拶すると何人もの女子が千宮司先輩に見惚れていた。


多分女子ばかりに見惚れられるのは先輩の子の中性的なルックスからだろう。


そんな光景がしばらく続いた後、都斗君が眠そうに登校してきた。


「あ、都斗君!」


私が名前を呼び手を振ると都斗君も私の存在に気づいたらしく


「おお響、響の声を聴いたら眠気吹っ飛んじまったよ」


などと少し恥ずかしいセリフを言うものだから、千宮司先輩が間に入ってきた。


「桐生君。今は挨拶運動中なんだ。そうやって特定の生徒と馴れ合うのはやめたまえ」


正直この先輩の存在がとても邪魔に見えた。


「えーと、生徒会長さんですか?今のは俺から話しかけたので響を怒んないで上げてください」


都斗君が私のことをかばってくれた。


「ほう。君はなかなか面白い生徒のようだね。名前は」


「響と同じ一年C組の月城都斗です」


「月城君ね。覚えておくよ」


正直千宮司先輩が都斗君のことを興味深そうに見つめているのにムカついたが、都斗君が笑顔で校舎に入っていくのを見て安心した。


それからの日々は一部の危険分子が混ざっていたがそれなりに安定した学校生活を送っていた。


学校で都斗君と一緒に過ごし、放課後は一緒に帰る。


まぁ放課後にも生徒会活動がある日はあったが。


だがある日、クラスLINEで明日転校生が来るという情報がリークされた。


「転校生?くだらない」


私の中では都斗君以外はどうでもいい存在である。


ただ、せいぜい都斗君にいい女だと思われるように道具として利用しようと思っていた。


この時はその道具だと思っていた存在に足元をすくわれるとは思っていなかった。

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