響の過去

少し私の昔話をしようと思う。


あれは確か中学校に入学したときのことだ。


当時の私は人見知りが激しく、入学式当日にクラスに入ると、もうそれなりにクラスの中でグループができていたため焦った。


それも当然だろう。


中学校は同じ小学校だった子と一緒の学校になる確率が高い。


だが私は小学校を卒業してここら辺に引っ越してきたため友達なんて誰もいない。


幸いにも席は端の窓の方だったので、私は入学式が始まるまで自分の席から窓を眺めていた。


すると一人の男の子が話しかけてきた。


「...こんにちは」


「こ、こんにちは」


「え、えーっと、このクラスの子かな?」


「う、うん。そうだよ」


私も人見知りだから人のことは言えないが、私に話しかけてきたその男の子も私に匹敵するぐらいの人見知りを発揮していた。


「そ、そこの席なの?」


「そうだけど...」


「俺はこの隣の席だから隣同士だね」


「う、うん」


人見知りではあるが、初対面の女の子にそんなこと言えるメンタルは少しうらやましかった。


そこから入学式が始まり、帰りに少し担任の先生から話があり、解散となった。


私はクラスの誰よりも早く帰ろうとした。


だが、隣の男の子に呼び止められた。


「ま、待ってよ。よ、よかったらさ俺と一緒に帰んない?」


「え?」


「ほ、ほら。俺ってこの喋り方からして分かると思うけどコミュ障でさ、今日勇気を振り絞っていろいろな人に声を掛けたんだけど見事に失敗しちゃってさ、唯一俺と会話してくれたのはあなたぐらいだったんだよね」


凄く緊張しながらしゃべる様子の思わず笑ってしまった。


あなたっていう呼び方が緊張の度合いを表していた。


断る理由もないので入学早々二人で帰った。


帰っている際も都斗君は緊張しながらもいろいろなことを訊いてきた。


家の位置は?どんな家族構成なのか?小学校ではどんなキャラだったのか?趣味は?好きな食べ物は?ゲームはするのか?本はどんなジャンルを読むのか?


様々質問してきた。


ここまでくると次第に私はけれに興味を抱き、徐々に私から話しかけることの方が多くなった。


休みの日はそれぞれの家で遊んだり、テスト期間は私の家で勉強会を開くなど、恋人関係まがいなこともやっていた。


二年生になるとクラスは別々になってしまった。


それでも都斗君はわざわざ違うクラスから足を運んで私に会いに来てくれた。


私も当然都斗君のクラスまで行き、皆がいる前で二人でどうでもいいことを話して笑ったり、時には都斗君に勉強を教えたりもした。


そんなことを続けているもんだから、当然ながら私たちが付き合っているのではないかという噂が学年中に広まった。


問い詰められると、二人して顔を真っ赤にして否定したが、私は内心では嬉しかった。


周りが私たちをカップルだと思っていることが。


三年生に上がると一緒のクラスになれた。


だが、三年生となると受験という一番大きなイベントが待ち受けていた。


私はそれなりに勉強はできた方だが、都斗君はそうでもなかった。


そのため、休日はほぼ毎日私の家で勉強会を行った。


本当は親から塾に入るように言われていたが、そんなことをしたら都斗君に勉強を教える時間が無くなってしまうため、断固拒否した。


ほぼ一年中休日はずっと私と都斗君で勉強したため、三学期のころには都斗君の偏差値はそれなりに伸びていた。


だがそれでも私が親に勧められていた私立の名門大学付属高校には届かないレベルだった。


このままだと都斗君と離れ離れになってしまう。


そんなことは考えられなかった。


一応都斗君に志望校を訊いてみた。


「俺は明善高校っていう高校が第一志望かな」


正直聞いたことのない名前の高校だった。


明善高校のことを調べると正直私の学力的に適した高校じゃなかった。


明善高校に入りたいと親に言っても絶対受けさせてもらえないと悟った私は、明善高校をすべり止めにとして受けた。


結果は見事合格。

後から知った話だが、どうやら私は主席だったらしい。


晴れてすべり止めに合格したのであとは第一志望に全力を注ぐのみ。普通ならそう思っていた。


だが、私はどうしても都斗君と離れたくなかった。


もう都斗君が推薦で明善高校に合格したことは知っていた。


受験日当日。

私は試験が始まった瞬間に名前だけ書いて答案用紙を裏にした。


私は親の期待よりも都斗君を選んだのだ。


親は私の裏切りにひどく落ち込んでいた。


今じゃほぼ私に無関心で妹のことばかりに関心を向けている。


都斗君に志望校に落ちて明善高校に通うと話したら


「マジで!?あの響でも落ちるとかあの高校どんだけ名門なんだよ。でも、響とまた三年間過ごせるは凄く嬉しいよ」


そう言って、裏表がない笑顔を私に向けてくれた。


この瞬間、もう親の失望なんてどうでもよくなった。


ただ今は都斗君と一緒に過ごすためだけに生きていると感じた。


そこから私は高校デビューというやつを狙った。


都斗君の彼女として恥ずかしくない人間になるようにだ。


だが、その結果あんなことになろうとは、この時はまだ夢にも思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る