響視点2

「...イラつく」


学校から帰ってくると、筆箱にあるハサミを取り出し、サンドバック代わりに枕を刺しまくる。


「イラつくイラつくイラつくイラつく」


まさか都斗君とあの女がもうそんな関係になってるとは予想できなかった。


迂闊だった。


昨日の五時間目にあの女が帰って来てない炉知ったとたんに都斗君が教室を飛び出したときに私も追いかければよかった。


そうすればあの二人がこんな関係になることはなかったのかもしれないのに。


「...憎い」


憎い。どうしようもなくあの女が憎い。

たかが転校背の分際で都斗君と恋人関係になるなど。


「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いニクイニクイニクイニクイニクイニクイ」


もう枕を貫通してベットまで刺しているがそんなことは気にならない。


「はぁー、はぁー、はぁー、」


10分ぐらい刺し続けていたのでさすがに体力の限界が来た。

一回冷静になってみる。


「どうして都斗君は私じゃなくてあんな女と...」


冷静になってくると改めて自分が虚しくなってくる。


中学校からいつも一緒にいたのに、ポットでの女に負けたという事実が私を黒く染める。


「ひどい...ひどいよ都斗君」


涙があふれてくる。


今日の朝いつものように都斗君の家に行ったときに、都斗君のお母さんに”都斗は昨日友達の家に泊まったよ”と言われた時から嫌な予感はしていた。


いや、いつまでもLINEを返さなかった時点で勘づいていたのかもしれない。


だけど信じたくなかった。


都斗君が私以外を選ぶわけないと信じ込んでいたのだ。


本当だったらあの女の最寄り駅の東南駅に行き、死ぬ気で探し出したかったのだが、私は都斗君を信じて一人教室で待っていた。


そしてしばらくして、教室のドアが開き、都斗君の姿を見た時は安心しすぎて泣きそうになった。


でもそれも一瞬の間だけだった。


都斗君の隣の方を見ると、あの女がまるで彼女かのように都斗君の腕にしがみついていたのだ。


その瞬間何も考えられなくなり、朝のホームルームで先生に名前を呼ばれるまではずっと気絶してたのと等しい状態だった。


それからは二人のことをよく観察した。


最初はさすがに恋人関係にまで発展していないと思ってた。


それでもあの女のなれなれしい都斗君へのアプローチは見るに堪えなかったが。


昼休みになり、私は当然いつものように都斗君と一緒に食べようとした。


今日も都斗君のために弁当を作っていたのだ。


だが私よりもあの女が早く動いた。


あいつが都斗君のために弁当を作ったといった瞬間に堪忍袋の緒が切れた。


もしあそこで菜草が声を掛けてくれなかったらどうなっていたかは自分でも分からない。


菜草に学食を行かないと誘われ、本当なら断る予定だったけど、今の自分はあの女と都斗君が一緒にご飯を食べる光景を目にしたら今度こそ暴走してしまうかもしれないと危惧して、おとなしく菜草と一緒に学食に行くことにした。


学食で二人でご飯を食べているときに、私は我慢できずに菜草に訊いた。


「ねぇ菜草ちゃん。正直に話してほしんだけど衣珠季ちゃんと都斗君はどういう関係に発展したのかなぁ?」


「...アンタには話してなかったけどさ、今日の朝もあの二人は体を密着させながら登校してたんだ」


「......」


「それに、月城からも積極的に体を密着させていた」


やめて。それ以上は言わないで。


心では必死に懇願したが、耳を貸さないわけにはいかなかった。


「多分これは予想というかほぼ確信なんだけどさ、あの二人付き合っているよ」


菜草にそう言われてから後のことはよく覚えていない。


ただ気づけば放課後になっていて、都斗君は隣で平然とあの女と帰る準備をしていたのが分かった。


その背中を自分はどんな顔で見つめていたのだろうか?


とりあえず都斗君に抱いたことのない感情を露わにしていることだけは分かっていた。


するとまた菜草が一緒に帰らないかと誘ってくれた。


多分これは私に対しての慰めと私から都斗君とあの女を守る目的もあったと思う。


二人で駅まで向かう途中菜草が何かを喋っていたが、これもあまり記憶にない。


多分この時の私は自我が消えていたんだと思う。


また気づいたら自宅の前にいて、今こうして自室にいる。


「......」


思い返してみるとまた無性に腹が立ってきた。


ハサミを握る手に力を入れてまたベット何度も突き刺す。


あんなに高かったベットが今は穴だらけだ。


それぐらい私の怒りはすさまじかった。


「あいつがあいつがあいつがあいつがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


叫びながら何度もハサミをベッドに突き刺す。


「お、お姉ちゃん!?どうしたの!?」


私の叫び声を聞いたのか妹が部屋に入ってきた。


「...っ!」


今私はイラついているというのに...本当に空気の読めない妹だ」


「お、お姉ちゃん?」


「出て行け」


「え?」


「出て行けって言ってるだろぉぉぉ!」


「ひっ!」


私が怒鳴りつけると妹は慌てて部屋から逃げて行った。


「......」


妹の背中を見て思う。


都斗君もあのように私に背中を向けてあの女のところに走っていったのかもしれないと。

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