放課後デートの誘い
帰りのホームルームが終わり、今は夜桜と帰る用意をしている。
「ねぇ月城君、このあと何だけど、少しこの学校周辺を案内してくれないかな?」
「全然いいぞ」
これはいわゆる放課後デートというやつか?
「じゃ日が暮れるといけないから早く行こう」
夜桜にせかされて急いで教室を出る。
ちなみに響はもちろんそんな俺たちを殺気のこもった目で凝視していたが、また湖三が
「響、久しぶりに一緒に帰らない?」
と、助け舟を出してくれたため、大事には至らなかった。
俺たちは朝みたいに体を密着させ、学校の校門を目指した。
一階まで降りると
「お、ちょうどいいところにいたね」
また上から目線な声が聞こえてきた。
声の方を向くと、千宮司先輩が仁王立ちしていた。
「今から帰りかい?」
「そ、そうなんですよ。ちょっと今から夜桜と一緒に学校の周辺を回ろうと思いましてね」
「...なるほど、つまり放課後デートというわけだね?」
「!?」
まさか見破られるとは。
いや、これは見破られて当然か。
「そういえば君たちは朝もそうやってから度を密着させて登校していたよね?ちょっと感心しないなぁ」
「この学校って恋愛禁止なんていう校則ありませんよね」
「ないよ。でも私が感心しないと言ったのは、テスト期間中にそんな大胆に大衆の前でイチャイチャすることはないんじゃない?と言っただけだよ」
...一応先輩の言っていることはごもっともである。
「私たちは周りの目なんか気にしてません。ただただ月城君と学校でもイチャイチャしたいだけです」
夜桜も堂々と言うな。
「だから私が言っているのは時と場合を考えろってことさ」
だんだん先輩の口調も強くなってきた。
「君の考えはまるで自分よければすべてよしと聞こえるが、もしそうならあまり学校生活を送るのには向いていないよ」
あの先輩でもここまで言うのは初めて見た。
「君は確か転校生だったよね?前の学校でもそこら辺が周りとかみ合わなくて転校してきたんじゃないかい?」
「...っ」
まずい。
夜桜に正徳高校時代のことを訊くのはご法度だ。
ここはさすがに止めよう。
「ちょっと先輩。たかがイチャイチャしていただけでそこまで言うことないでしょ。なんか先輩っぽくないですよ」
「......」
少し失礼な言い方だが、先輩は特に反論するとかではなく、数秒沈黙して
「ああ、確かにその通りだな。いつもの私じゃなかったな。すまなかった」
頭を下げる千宮司先輩。
え?あの千宮司先輩が誤った!?
これはとんでもないことじゃないか!?
俺が一人で勝手に興奮していると
「いいえ、私の方こそ少し暑くなり過ぎました」
夜桜も頭を下げて謝った。
これは一応仲直りしたっていることでいいのかな?
「そ、そういえば先輩。俺たちを呼び止めた理由は何だったんですか?」
「ああ、この前月城君に男子トイレの詰まりをとってもらっただろ?だが、実は今日男子トイレだけじゃなく、女子トイレも詰まっていることを発見したんだ。
なるほど。
女子トイレということは俺じゃなく夜桜に手伝ってほしかったというわけか。
「本当だったらまた月城君に協力してもらいたかったんだけどね。お取込み中のようだ。今日は失礼するよ」
そう言うと千宮司先輩は気まずそうに早足で二階に上がっていった。
いや、なんで女子手入れなのに俺に協力を要請するんだよ。
「月城君。早く行こ」
「あ、ああ」
夜桜は俺の腕にしがみつき歩き始めた。
学校周辺とはいっても、この学校は立地が悪いため、これといった娯楽施設があるわけじゃない。
しいて言えば少し大きな業務スーパーがあるということだけだ。
「これといった遊び場があるわけじゃないんだね」
少し落胆するように夜桜が言う。
夜桜が落胆するのも無理がない。
正徳高校は偏差値も高いため、かなりの駅地下で周りも都会だった。
だが、明善高校は御覧の通り偏差値も低く、駅地下じゃない。
これじゃ正徳高校に何一つ勝ってないみたいで悔しい。
何とかして学校周辺に何か娯楽施設がないか探す。
正直俺もこの学校の周辺に詳しいわけじゃない。
地元だったらそんなことはないが、家から遠い学校の周りなんて誰が覚えていようが。
「...本当に業務スーパーぐらいしかないんだね」
「...そうだな」
しかもその唯一の業務スーパーも別に綺麗というわけでもない。
どちらかと言えば古くて汚い方だ。
目を凝らして、何か娯楽施設がないか探していると
「あ!」
ここからあまり距離がないところに、大きいボーリングのピンが立っているのが見えた。
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