夜桜のアピール
「ねぇねぇ月城君、この問題なんだけど」
今日も体育は自習時間となった。
前は夜桜は外組だったが、今日は自習組として教室に戻っている。
「えーっと、これは、ドント式を使って...」
まさか俺が教える側になるとはな。
今夜桜に教えているのは公民だ。
俺も響に教えてもらったばっかりだだからそこまで知識があるわけじゃないが。
そういえば響と言えば
「......」
もう隣を見なくても俺と夜桜を凝視してるのが伝わる。
「あ、そういうことなんだね~」
自習中にも関わらず夜桜はあえて大きな声を出し、俺に勉強教えてもらっているアピールをする。
そのたびにクラス中の男子から憎しみのこもった目で睨みつけられるのが痛い。
体育はいつも二時間連続で行うため、自習時間も二時間連続となっている。
長いのは当たり前だが、今日はより長い気がする。
「...早く終わんないかな」
「ん?月城君?何か言った?」
「い、いや、何でもない」
危ない危ない。
夜桜の顔を見ると、今の時間を幸せに感じているようだから俺が水を差すようなこと言うわけにはいかないな。
「あ、月城君、ここってどう訳せばいいかな?」
英語は夜桜の方が得意だから、わざわざ俺に訊くことないんじゃないか?
「えーっと、ん?なんだこの単語?」
見たことない単語ばっかだぞ。
これは訳せないな。
「え、えと、ちょっと分からないかな...」
「...しょうがないなぁ月城君は、この単語はね」
なるほど、これが狙いか。
今度は俺に教えているアピールか。
「赤点とればいいのに...」
おい、今どこかから陰口が聞こえたぞ。
「じゃここは分かる?」
「...分かりません」
「ほんと私がいないとだめだよねぇ月城君は」
そろそろ隣から殺気を感じるようになったから声を下げてくれませんかね。
「はい、それじゃ自習終了」
やっと終わった。
実質4時間ぐらいやった気がする。
たが次は昼食だから自習よりも悲惨なことになりそう。
「ねぇ月城君。今日月城君のために弁当作ってきたんだ」
いつ作った?
昨日はずっと夜桜の家にいたため、夜桜がキッチンで俺の弁当を作っているとなれば気づかないわけないのだが。
まさか夜中にこっそり作ったとかか?
夜桜なら十分あり得るな。
「おい、聞いたか?月城の奴、昨日は桐生で今日は夜桜だってよ」
「ほんと何股してんだあいつ?」
「愛妻弁当を二人からもらうなんて羨まし...最低だな」
もうこそこそ話は聞き飽きたので何とも思わない。
「ほら月城君、一緒に食べよう」
「あ、ああ」
だが、ここで大きな問題がある。
響をどうするかである。
「......」
自習の時間から相変わらず殺気を込めた目で俺たちの方を凝視している。
夜桜はうまく受け流しているが、俺は受け流せない。
「ひ、響、よかったら今日私と学食で食べない」
ここでなんと湖三から助け舟が出た。
「...まぁ菜草ちゃんならいいか」
ようやく響から発せられた声は、鳥肌が立つほどの低い声だった。
その声に一瞬後ずさりした湖三だが、そこはさすが友達、それぐらいでは引き下がらない
「な、ならさ、早く行こ?」
湖三が響の手を引いて教室から出て行く。
俺は目線だけでも湖三にお礼したかったが、響が湖三に手を引かれながらも、こちらを凝視していたため、目を合わせる勇気がなかった。
...ホラー映画かよ。
「ほら、月城君。月城君のことだけを考えて作った弁当だよ」
「ありがと」
俺のことを考えながら作ったと言われていやがる男はいない。
ふたを開けると、確かに女子高生が作りそうな可愛らしい弁当だった。
だが、やはりというべきか、白飯の上にはのりで”大好き♡”と書かれていた。
「//」
こんなの照れないわけない。
俺は夜桜が俺のためだけに作ってきたと断言する弁当のおいしさをかみしめながら箸を動かした。
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