夜桜の想い
一人で家に帰っていると、幼馴染のことを思い出す。
”俺にまとわりついて、ずっと迷惑してたんだ”
もしかしたら月城君もそんな風に思っているのかもしれない。
「......」
嬉しかった。
会ってから一日で、私のとった行動を勇敢だと称賛してくれたことが。
「......」
嬉しかった。
私を冷酷な女ではないと断定してくれたことが。
「......」
嬉しかった。
私にもう一度誰かを好きになる機会を与えてくれたことが。
「......」
でも、今思い返してみるとそのすべてが間違いだったのではないだろうか。
今日朝響ちゃんが月城君と遊んだと話したときに私はしっかりと怒りを覚えただろうか?
”あの時”と同じように一瞬で冷めてしまったのではないだろうか?
「......」
今もこうして、”あの時”と同じように復讐を考えているのではないだろうか?
「...ああ」
なんだ。結局私は好きになった相手に対して執着せず、すぐに気持ちが覚めるほど冷たい女だったのではないか。
「...そうだよね」
そう考えてみると自然と気が楽になった。
結局私はどこまでも冷酷な女だったのだ。
家が見えてきた。
午後の授業をサボって帰ったため、まだお母さんは帰ってきてないだろう。
そういえばまた高校を転校するとなると親に多額の負担を背負わせることになる。
そう考えるとまだ転校は考えなくてもいいかもしれないな。
でもしばらくは学校を休むことになるだろう。
「...なにこれ、あの時と全く同じじゃん」
笑えてくる。
確か”あの時”も学校をしばらく休んでいたら電話がかかってきて...
それ以上は思い出すのをやめた。
門を開け、家の中に入ってくる。
思った通りまだお母さんは帰っていなかった。
自室に入る。
「......」
ここだと何となく思い出してしまう。
私が初めて肯定されたことを。
ふと、勉強机に飾ってあるこの部屋で撮った月城君とのツーショット写真を見る。
「!?」
その写真を見た瞬間、すぐにでもびりびりに破いてしまおうと思ったが、どうしてもそれを行動に移すのはためらってしまう。
何も考えずベットの上で横になる。
確かあの”裏切りの瞬間”を見た時も何も考えずにベットに倒れてっけ。
あの時との違いと言えば今は泣いていないということだ。
「......」
でもどうしてだろう。
なんかこの部屋にいると無性に泣き出してしまいそうな気分になる。
私は冷酷な女のはずなのに...
「...っ」
泣きそうになる自分に腹が立ち、家を飛び出して近くの公園まで走る。
公園には、人っ子一人いなかった。
いつもなら小学生がギャーギャー騒いでいるが、まだ時間的に学校が終わってないのだろう。
私は一人寂しくブランコに乗った。
だがとてもじゃないけどブランコをこぐ気にはならなかった。
「...あれ、おかしいな。ここは自宅でも自室でもないのに...」
眼からなにか熱いものがこみあげてくる。
「...私は冷酷な女なのに」
冷酷な女に泣く資格なんてない。
早くおさまれ!
そう心の中で叫ぶが、おさまるどころかどんどん溢れている。
「...お嬢ちゃん、どうしたんだい?」
偶然公園の周りを散歩していた老人に声を掛けられた。
「い、いえ、何でもありません」
自分の声が震えていることに気づく。
「...そうかい?ならいいんだけど...もし何かつらいことがあるのならとりあえずおうちに帰るのが一番だよ」
そう言って老人は去っていった。
確かに、こんなところにいつまでいたってどうしようもない。
もし帰ってきて私がいなかったら親に心配をかけてしまう。
ブランコから立ち上がり、公園から去ろうとすると
「夜桜!」
すぐ近くから私を肯定してくれた青年の声がした。
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