夜桜の失踪

「ねぇねぇ都斗君、今日都斗君のために弁当作ってきたんだ」


昼休みになり、いつも通り学食に行こうか売店に行こうか迷っていたら響がそんなことを言ってきた。


「はいこれ、都斗君」


「え、あ、ありがとう」


響から渡された弁当箱はピンク色のハート型になっている。


「容器は私と同じだよ」


響が手に持っている弁当箱もピンク色のハート型になっていた。


その光景を見ていた女子がまたまたこそこそ話をしている。


「あ、でも夜桜は」


「ほら、食べよう都斗君」


「......」


夜桜の名前を出そうとすると、少し圧を含んだ声で遮られた。


「あ、菜草も一緒に食べる」


「え?でも二人の時間を邪魔しちゃ」


「いや、一緒に食べよう湖三」


「え、月城」


なんかこのまま響と一緒に教室で弁当を食べようとするとまた変な噂が広まりそうだ。


「...分かったわよ」


案外早く決断してくれて安心した。


湖三が迷っている時間ずっと俺に向けて笑顔の圧をかけていたから、あと一秒でも湖三の返事が遅れていたらどうなっていたか分からない。


「そういえば夜桜は...」


夜桜の席を見るともういなかった。

おそらく一人で学食にでも行ってるのだろう。


「「「いただきます」」」


響が作った弁当箱を開けると


「......」


白飯の上にのりで”都斗君、♡”と書かれていた。


どうやらそれは湖三にも見られていたらしく、二人して固まる。


「どうしたの二人とも、早く食べようよ」


響にそう促され、まずは一刻も早くこの文字を消すため、白飯とノリを口に含む。


湖三はコンビニ弁当を食べている。


食事中ずっと


「都斗君、どう?おいしい?」


と訊いてくる。


それにいちいち答えるため自然と箸が遅くなってしまう。


湖三は気まずそうに食事をしている。


悪いことをしたと思う。


「ご馳走様でした」


一番最初に食べ終わったは当然響だった。


「本当は都斗君が食べ終わるまで待っている予定だったけど、千宮司先輩から呼び出されちゃったからもう行くね」


そう言うと名残惜しそうに生徒会室に向かっていった。


「......」


「......」


俺と湖三という気まずい二人で昼ご飯を食べる。


「ねぇ、アンタ」


「ん?」


珍しいな、湖三から俺に話しかけてくるなんて。


「いいの?」


「いいって、何が?」


「だからあの転校生のことよ」


まさかここで湖三の口から夜桜の話題が出るとは思わなかった。


「いつもアンタと響とあの転校生の三人で昼ごはん食べてたじゃない」


「ああ」


「それなのに今日はなんで響とだけ食べているのよ」


「.....」


返答に困ってしまう。


確かに今日は夜桜とあまり会話をしなかったし、昼食も一緒に食べられなかった。


なんでと訊かれたらただ響からの圧が怖かったと答えるしかない。


「まぁ何となく響があの転校生に嫉妬してるってことは気づいてたけど」


確かにこれまでの響の行動を振り返ればそんなことは一目でわかるが。


「でも、これだけは言っておくわ。さっき響がアンタを飯に誘った時、あの転校生は凄く悲しそうな眼をして出て行ったわ」


「......」


湖三の話を聞いて胸が痛むのを感じた。


結局五時間目が始まってからも夜桜が帰ってくることはなかった。


先生は何も言わないが、俺はだんだんと不安になってきた。


さっき湖三から言われたことが頭から離れない。


”凄く悲しそうな眼をして出て行ったわ”


夜桜の過去を思い出す。


ずっと恋していた幼馴染に捨てられ、その復讐の罪悪感にずっと苦しまされてきた。


「で、ここは...って、おい、月城!授業中だぞ!」


いつの間にか俺はいてもたってもいられなくなり、夜桜を探しに教室を飛び出していた。

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