響視点

「よし、これでもう日本史、世界史、公民は大丈夫かな」


時計を見るともう18時を回っていた。


「もうこんな時間か。じゃ都斗君、そろそろ帰ろうか」


「う、うん」


五時間通しで都斗君に社会科科目を教えたため、今にも寝そうな顔をしている。


可愛い。


「都斗君?立てる?」


「うん、一応」


力なく立ち上がる都斗君。


私は都斗君の肩に手をのせ、サポートする。


駅の改札口を通る。


「はい、都斗君。今日一日中お疲れ様」


ホームに設置されている自動販売機でポカリを買い都斗君に挙げる。


「...ありがとう響」


都斗君は勢いよくポカリをガブガブ飲んだ。


ポカリを飲み終えると少し元気が湧いてきたようだ。


「今日は本当にありがとな響。俺なんかの勉強を五時間も見てくれて」


「ううん、私の方こそ遊びに付き合ってくれてありがとう」


「多分響にこんだけ教えてもらったんだから次のテストはクラスで上位とれるかもな」


「うん、都斗君なら取れるよ」


そんな会話をしていたら電車が到着した。


新岡千駅は岡千駅から二駅離れているだけなので、あっという間に岡千駅に到着した。


「今日は本当に楽しかったね」


「そうだな。二人だけで外で遊ぶのも久しぶりだったからな」


本当に久しぶりだった。


今になると後悔している。

もっと都斗君を外に誘っていればよかったんだ。


そうしてればもっと...


「響?...響?どうした」


「...!?な、何?都斗君」


「いや、なんか急に黙り込んだからさ」


「あ、ううん。何でもないよ」


「そうか?なら早く改札口を出よう」


「...そうだね」


少し今日という日が終わるのが寂しく感じる。


「じゃまた月曜日な響」


「うん、また月曜日ね都斗君」


都斗君の家の前でお別れの挨拶をする。


都斗君が家に入ったのを確認すると私は自分の家まで走って帰った。


自分で言うのもなんだが私は結構足が速いためすぐに無駄にデカい家が見えた。


「あら響。お帰りなさい」


家に入ると無駄にブランド品を身に着けている母が迎えてくれた。


「...ただいま」


一応小さい声で返事を返す。


「どうしたの?今日はいつもと比べて元気がないじゃない」


「...何でもない」


そう言うと三階にある自室まで走る。


部屋に入るとそのままベットに倒れこむ。


「都斗君...//都斗君...//都斗君...//」


布団に入りながら今日の都斗の表情を思い出す。


「はぁ...//はぁ...//はぁ...//」


都斗君の表情を思い出すだけで興奮しすぎて無意識に鼻息が荒くなる。


特に塾を出た時の都斗君の眠たそうな顔を見た時は理性を抑えるのが大変だった。

オムライスにハートマークのケチャップをつけた時の都斗君の恥ずかしそうな顔もそそった。


「ああ//...ああ//...ああ//」


やばい。

興奮が抑えられない。


こんな姿都斗君には絶対見せられない。


我慢できずにスマホで今日都斗君と撮った写真を見返す。


その時に間違えてLINEを開いてしまい、一瞬夜桜衣珠季のアイコンが目に移ってしまった。


「...っ」


あのいけ好かない女の名前を見て無性に腹が立った私は思わずスマホを壁にたたきつけた。


すると思いのほか大きい音が鳴り、音を聞いた隣の部屋にいる妹が私の部屋に入ってきた。


「お姉ちゃん!?今凄い大きな音がしたんだけどどうしたの?」


「...あんたには関係ないでしょ」


「え?」


「あんたには関係ないでしょって言ってるの!!」


「!?」


そう怒鳴りつけると妹は少し涙目になりながら出て行った。


「...ホントむかつく」


なぜ私の周りにはこうもむかつく女ばかりいるのだろうか。


「......」


少し落ち着いて私が集めていた都斗君の写真コレクションを見た。


「...都斗君//」


都斗君の顔を見るだけで気持ちが落ち着く。


「ああ...都斗君//」


そこからまた私は自分と都斗君だけの世界に入っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る