マイホーム

夜桜の家を出た時はもう7時を過ぎていた。


「意外と長くお邪魔しちゃったな」


あれから夜桜が積極的に俺との雑談を交わし、結果的に家を出るのが予定よりもずいぶん遅くなってしまった。


「しかし夜桜が実はあんな陽キャ女子だったとは」


肩の荷が下りたのだろう。


たぶん明日から夜桜の雰囲気が一転してちょっとした騒ぎになりそうだ。

特に響は驚くだろうな。


「それにしても帰宅部の俺が今から帰宅とはなぁ」


運動部だったらこの時間帯に家に帰ることは日常茶飯事だと思うが帰宅部でこの時間はどこかに寄り道しているとしか考えられない。


電車に乗り最寄り駅の岡千駅に到着する。


俺の家は駅から徒歩四分という非常に立地がいい場所に建っている。


家の大きさは普通だが。


「ただいまー」


「俺がそう返事をすると台所からおかえりーとお母さんの声がした。


一応俺の家族構成を説明しておくと。俺と姉と母と父の四人家族だ。


今はお父さんが出張に行っていて姉が留学しているので家には俺とお母さんしかいない。


夜桜と同じように俺の部屋も二階にある。


「...夜桜の部屋と比べるとだいぶ狭いな」


夜桜の家の後だと全体的にこの家が狭く感じてしまう。


「漫画やゲームの多さだったら勝てると思うんだけどな」


まぁ整頓されてないからそこら中に散らばっているが。


「ふぅーー」


もうすぐテスト期間だというのに何もやる気にならない。


とりあえず今日は夜桜を励ますという大仕事を成功させたからいいだろ。


「とりあえずYoutubeでも見て時間潰すか」


しばらくYoutubeを見ていたら下から母のご飯ができたという声が聞こえたのでスマホをしまう。


Youtubeを見ているとやけに時間が過ぎるのが早く感じるのは俺だけか?


夕食を食べ終わるとすぐにお風呂に入るというのが俺の習慣だ。


「熱!夏なのにこのお湯の暑さはのぼせそうだ」


俺は暑がりなのでお湯の温度は下げるようにしているのだが...


多分これもこの暑さが原因だろう。


風呂に入りながら夜桜が話した過去について振り返ってみる。


「それにしても夜桜の幼馴染クソ野郎だな」


よくテレビでもクズ男に制裁を加える番組とかがやっているが、夜桜の幼馴染こそそういう番組に呼ばれるべき存在だと思う。


今にして思うと俺と響が付き合っていないと言って夜桜が安心した顔になったのは、もし付き合っていたら自分と同じ状況に陥ってしまうと危惧してたからかもしれない。


「まぁそいつの気持ちなんて彼女いない歴イコール年齢の俺には到底分からないだろうけどな」


浮気できること自体がうらやましいと思ったことは正直何回かあるが今日の夜桜の話を聞いてうらやましいなんて気持ちは消し飛んだ。


「いくらモテても浮気するなんてのは軽蔑されるべき存在だよな」


流石に浮気するような奴は俺みたいな非モテでも見下していいよな。


「...ちょっともう限界だ」


10分もしないうちに暑さの限界が着てお風呂を上がる。


「もう今日はさっさと寝ようか」


自室に戻ってそのままベットに倒れこもうとすると


「ん?」


スマホの着信音が鳴った。


「これは響からだな」


何通かの響からのメッセージが届いていた。


「都斗君お疲れ。今日も千宮司せんぐうじ先輩にこき使われちゃった」


千宮司せんぐうじ先輩は明善高校の生徒会長だ。


俺もよく知っている。


何故かC組にちょくちょく顔を出す二年生の先輩だ。


「都斗君はどうだった、ちゃんと衣珠季ちゃんと帰ってあげた?」


まさか俺が夜桜と帰ることを見越してたとは。


どうしよう。響には今日のことを話しておくべきか?


いや、夜桜にとっては記憶から抹消したい出来事だと思うから無許可で伝えるのはまずいな。


とりあえず響にはめっちゃ親しくなったと伝えておこう。


俺がそう返信すると秒で返事が返ってきた。


「そうなんだ。これで二人目の女友達ができてよかったね都斗君!」


正直俺に夜桜が心を開いてくれたのは響のおかげだしな。


夜桜が元気になったのも元をたどれば響のおかげだ。


「いや、俺と夜桜が親しくなれたのは響のおかげだよ」


「そんなことないよ。都斗君のコミュ力が高かったおかげだよ」


そのコミュ力が高くなったのも響のおかげだが。


「それじゃまた明日ね都斗君」


「じゃまた明日な響」


一通りのやり取りを済ませ、スマホのアラームを設定する。


「さぁもう寝るか」


部屋の明かりを消し今度こそベットに潜る。


目をつぶると頭に浮かんでくるのは夜桜の過去のことばっかりだった。

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