転校生の過去
「ここだよ」
夜桜の家は予想以上に大きかった。
少なくとも俺の家の1.5倍ぐらいは大きいな。
「さ、入って」
「お、お邪魔します」
中はしっかりと外見と比例していた。
どうやら夜桜の部屋は二階みたいだ。
「ここが私の部屋」
「へぇ~部屋も結構広いな」
「何も家具がないから広く見えるだけだよ」
それでも広い気がするが。
「何か飲む?」
「いや、いつも学校にカルピス持ってきているから大丈夫だよ」
俺はコーラよりも断然カルピス派だ。
「それでさ、月城君」
「ん?」
「ちょっと私の過去の話聞いてくれるかな」
「さっきの幼馴染がどうかとかいうやつか?」
「そう」
口調からしてだいぶシリアスな話になりそうだな。
俺はせめてもの礼儀としてカルピスを飲むのをやめた。
「さっきも言ったけど私には昔から家族同然の付き合いをしていた幼馴染がいたんだよ」
家族同然って相当だな。
「その人は昔から私のことを気にかけてくれてね、友達がいない私のために仲の良い女友達を紹介してくれたり、いじめられたりしたときに庇ってくれたりしたんだ」
異性の幼馴染のためにそこまでする奴は少ないだろうな。
「私が正徳高校だって話はしたでしょ」
「ああ」
「私はもともと頭悪かったけど、その幼馴染が勉強を教えてくれたから正徳高校に合格することができたんだ」
正徳高校は全国的にも有名高校なのでそこに入れるように勉強を教えてくれたとなるとその幼馴染は相当頭がいい。
「当然幼馴染と同じ高校に入学したんだけど、私は少し焦ってた」
「焦ってた?」
「身長が高くて顔も整っていて勉強もできてスポーツ万能の男子なんかモテないはずがないでしょ?だから私は誰よりも早く告白したんだ」
「それで返事は?」
「向こうも私のことがずっと好きだったって言ってくれてね、晴れてその日から幼馴染から恋人関係に発展したよ」
ん?なら別に転校する火種になったことはなさそうだが
「でもね、付き合ってから月日がたつにつれてあまりあの人が私に構ってくれなくなったの。
どっか遊びに行こうって言っても用事があるの一点張りでね」
「......」
「でね、私ある日にとうとうあの人が同じクラスの女子と仲良さそうに歩いていてそのまま家に入るところ見ちゃったの」
「え」
「その日は家に帰って泣き続けてね、もう何もする気になれなくて何日かは学校を休んだよ」
「......」
「でね、久しぶりに学校に登校していたらまた二人が仲よさそうに密着して登校してるのを見つけて、私我慢できなくてなんで他の子と仲よさそうに歩いてるの?って質問したんだ」
夜桜は涙を流しながら語っている。
「そしたら、昔からお前にはうんざりしていたって言われてね、もうそれを聞いた瞬間私冷めちゃったんだ」
「......」
「それからは転校する準備を進めるために何日かは学校を休んだんだ」
「......」
「でもね、学校を休む前に二人に復讐しようって思って”乱暴された挙句浮気されて捨てられた”っていう情報を流したんだ」
「......」
「でも今思うと私のやっっパリあの時私のとった行動は決してやってはいけないことだと思うんだ」
「......」
「昔からずっと好きだった相手にあんな仕打ちをできる自分の冷淡さが怖いんだ」
「......」
一通り話終わると夜桜はただ嗚咽を漏らすだけになった。
だが俺は言ってやらなければならないことがある。
「夜桜、なんでお前が泣いてるんだ?」
「え?」
「お前はその幼馴染に対しての罪悪感で泣いてるかもしれないが、お前が泣く必要なんてない」
そうだ。
これだけは確実に言える。
「いいか、どんだけ昔から遊んだって、庇ってくれたって、勉強を教えてくれたからと言って、決して裏切っていい理由になんかならない」
裏切り行為というのは一回するだけで相手の信頼をすべてなくす。
それぐらい罪深い行為なんだ。
「だから裏切った相手に対してお前が罪悪感を抱く必要なんかこれっぽっちもない」
「で、でも、仮にもずっと好きだった幼馴染にあんな」
「いいんだ。悪いことをしたら社会的制裁を受ける。それがこの社会のルールだ」
「......」
「それに、お前は自分のことを冷酷な女だなんか言ってたけどな、本当に冷酷な人間は涙なんて流さないんだよ」
「あ」
「だからいつまでも自分を責めるのはよせ。もしお前のとった行動を誰かが批判するなら、俺は胸を張って絶賛する。お前は泣き寝入りという選択を選ばなかった勇敢な女なんだ」
「月城君...」
現に俺だったら絶対泣き寝入りする。
それを選ばなかった夜桜は勇敢と言わず何と言う。
「......」
「......」
しばらく沈黙が続く。
「月城君」
「なんだ」
「私、いいのかな。また誰かを好きになってもいいのかな」
「当たり前だ。そんなの人なら誰しもが持っている権利だ」
「そっか...うん、ありがとう」
そういう夜桜の顔は今までの暗さを感じさせないほど輝いて見えた。
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