転校生と学食

昼休みになると大体の生徒が学食か購買に行く。


「じゃ響、俺たちも学食に行くか」


自慢じゃないが俺はいつも響と一緒に学食で昼飯を食べている。


「そうだね...」


そう呟く響の目線は昼休みになったのに席から離れない夜桜に向けられている。


「ねぇ衣珠季ちゃん、よかったら私たちと一緒に学食行かない?」


響のこのコミュ力の高さどうなってるんだよ。


「...いいの?」


「も、もちろん」


しっかり俺も行くというのをアピールしておく。


「じゃ行こうか」


この学校の学食は一階にある。


ちなみに俺たちの一年C組の教室は四階にある。


一階に下りる途中でほかのクラスや学年の連中とすれ違うとほぼ全員振り返った。


それは仕方ない気もする。

夜桜ほどの美人の人が歩いていたら釘付けになる。


学食につくともうほとんどの席が埋まっていた。


「えーっと、どこか三人で座れそうな席は...あ、ちょうどあの奥の方の席が空いてるね」


その席に座ると学食にいる生徒の目線が一斉にここに集まっている気がした。


「じゃ俺が食券買ってくるよ。響はいつも通りきつねうどんでいいか?」


「うん、今日もきつねうどんにしようかな」


「分かった。夜桜はどうする?」


「...たぬきそばで」


「よし、分かった。ちょっと待っといてくれ」


食券を買って列に並ぶと案の定だいぶ行列だった。


「これじゃゆっくり食べる時間が無くなるな」


ここは裏技使うか。


「あ、すみません。ちょっとお願いがあるんですけど」


「はい、なんでしょうか」


前に並んでいる男子に話しかける。


「俺あそこに座ってる女の子の連れでしてね、あの子が結構お腹が空いてるみたいなんでここ譲ってもらいませんかね?」


「あ、あの子ですか...なるほど。じゃ前行っていいですよ」


やっぱりうまくいった。

男子なら夜桜のためだと言って譲らない奴はいないだろう。


俺はこの作戦で見事5分もかからないうちに全員の食事を調達してきた。


「はい、お待たせ~」


「ありがとう。それにしてもずいぶん早かったね」


「まぁたまたまだよ」

流石に響には作戦のことを言えない。


三人一緒の席で食事をとる。


ちなみに俺の昼食はカツカレーだ。


「衣珠季ちゃんは何高校から来たの?」


「...正徳せいとく高校」


クラスメイトの中にも同じような質問をしてたやつがいたがこの手の質問に答えたのは初めてだ。


「へぇ~確かあそこって結構偏差値高かったよね。やっぱり衣珠季ちゃん頭いいんだ」


「......」


全然会話が続かない。


響が俺からもなんか質問しろと目で訴えているが何を質問すればいいのか分からない。


そんな感じで俺がもじもじしていると


「...二人は幼馴染?」


夜桜から質問が出てきた。


「一応中学校は同じだったけど...幼馴染っていうわけじゃないかな」


響が答える。


確かに響と俺は中学が同じだ。

響は中学で常に成績が学年一位だったのに何で俺と一緒の高校に来たのか不思議だが。


「...付き合ってるの?」


「!?」


思わず口に含んだ米を吐き出しそうになった。


確かに響と付き合っているなら俺は勝ち組だが。


「つ、付き合ってたりはしないよ」


これには響も顔を赤くして答える。


「でもいつも二人で学食に来てるんでしょ?」


それはそうだが。


「そ、それはあれだ、一緒に学食で昼飯を食うぐらい仲が良いってことだ」


「そ、そうだよ。私たち中学校の時からずっと仲良いし」


「...そうなんだ」


一応納得してくれたっぽい。


でもなんだろう、一瞬安心した顔をしていた気がするが...


そこからは夜桜もだんだんと喋るようになっていき、昼食を食べ終わる時には普通に話せるぐらいの関係になっていた。


「もうそろそろ五時間目が始まるね。そろそろ戻ろうか」


俺たちは昼食を食べ終わってからもずっと学食で雑談を交わしていた。


「あ、そうだ夜桜。これからの授業のテキストもまだ持ってないだろ?また一緒に見るから机つなごうか」


「...うん、そうだね」


ご覧の通り俺からも自然と話しかけられる関係になっていた。


まぁその代わりほかの男子からの目線はしばらく冷たくなるだろうが。

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