第15話 殺し合い舐めんな

やっぱり魔法は素晴らしい。

1番の頭痛の種だった場所問題が解決した。


<誰も知らない部屋>


この魔法は、きっかり2時間外界と離れた黒い謎空間に閉じ込めることができる。


ド深夜におっさんに呼び出されて城の中庭に来た勇者を俺と共に隔離することに成功した。

こんな悪趣味な魔法を覚えていた貴族のおっさんに感謝しなくては。


「‥‥‥え?ここどこ?アンタ誰?」


一応旧知なのだが、覚えていのは無理もない。

中学時代の俺は、ただ教室にいるだけの置物だったから。

俺がお前を覚えていれば良い。


「敵だよ」


そう言って短剣で心臓を狙いにいく。

殺意丸出しで刺そうとしているのに、勇者はボーッとしている。


ガギッッッ。


本人は何かをした気配はないのに、見えないバリアに弾き返される。


「え?何?敵?」


勇者がやっと、おしゃあな剣を構える。

軽く振ると、火の竜が出てきた。

あの大蛇よりもデカい火の塊が俺を目掛けて突進してくる。


「‥‥‥」


暑い。

感じたことは、それだけだった。

もちろん、ダメージは負っているんだろうが、ローファさんいわく、俺の痛覚はほぼ機能していないらしいので、あまり気にならない。

あんなにおしゃあな火の鳥の攻撃なのに、この程度か。


「‥‥‥やったか?」


煙が出ている中、勇者がぼやいているが、そんなわけねーだろ。


「殺し合い舐めんな」


火の鳥が出してくれた煙に紛れて、今度こそ首を狙う。

あのバリアの仕組みは分からないが、不意をつけば突破できるかもしれない。


ズブっ。


予想は合っていたようで、首を2センチほど刺すことに成功した。


「痛ってえぇぇェゥぁぁぅ!!!」


その場で崩れ落ちる勇者。


「テメー!シャレになんねーぞコレ!」


シャレじゃないからなぁ。


「どうすんだよ!責任取れよ!」


しゃがみ込み、武器を放り出している状態は隙しかなかったので、今度は眼球を刺す。


「ギャァあぃぁぅ!!!」


……なんか、つまんねーな。

実力差は、それこそシャレにならないほど勇者が上だ。


才能ってのは難しいな。

この後に及んでもこいつは、蹲るだけだ。

まだ、心臓は動いているのだから、攻撃を仕掛ければ良いのに。


「アリス!マーレ!助けてくれ!」


自分から動かなくとも助けてくれる人が周りにいたのだな。

でもね、この空間にその人達は来れないんだよ。


「なんで‥‥‥こんなわけわかんねー奴にこんな目に遭わさられなきゃなんねーだ!」


そろそろ、この愚痴にも飽きてきた。

ああ。でも、これだけは聞いておくか。


「中学の天野くんを覚えてるか?」


せめて、多少の罪悪感を持っていてくれ。

そんな希望を抱いてしまったのは、あまりに情けない人間を見ていて心が疲れてしまったからだろう。


「誰だよそいつ!良いからヒールかけろ!」



\

気づいたら、短剣が頭蓋骨を貫通する形で勇者に刺さっていた。


あれ?

いつの間に。


これほど見事に刺さったということは、とんでもない力を込めて刺したとしか考えられない。

あまりのストレスに脳が記憶の一部を消したっぽいな。


「‥‥‥はぁ」


その場で大の字に横たわる。

疲れた。

大蛇戦の方が、よっぽど傷も時間も多かったが、何倍も疲れていた。


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