第7話 低俗な笑み
そろそろ、俺を殺してくれる人を見つけなくては。
大蛇を殺した今、やるべきことも無くなった。死んでまた、別の異世界に飛ぶ可能性も否定できないが、この世界に留まる理由もない。
今のところ、ローファさんが第一候補……というか、唯一の存在だ。
そのローファさんは、俺の前で無防備に寝ている。思えば、寝顔を見るのは初めてだ。
何の得もないのに、俺を引き取って生活環境を与えてくれた上、どうしようもない殺し合いに3日付き合ってくれた物好きな女性の寝顔。
「‥‥‥」
ローファさんの見事な攻撃魔法を思い出す。
火も水も雷も自在に操る彼女は、もし俺を殺す必要に駆られたら、どの魔法でトドメをさしてくれるだろうか。
火はオーソドックスだな。大蛇からも喰らったけど、あの全身が腐るような感覚で死ぬのは苦しそうだ。
水も良い。水の塊みたいなのが出せたはずだから、それで溺死するまで俺を見つめ続けられるのも一興だ。
雷は俺の想像を絶するだろう。静電気くらいしか経験していないから、喰らったらどんな感じなのか興味がある。
見た目は厳ついがお人好しなこの人のことだ。頼めば割とサラリと殺してくれるかもしれない。
<ごめんね、ごめんね‥‥‥!>
脳裏にカナの苦悶に表情が歪みながらも握力は緩めない姿がよぎる。
あの顔を、もう一度見たい。
殺したくないけど、殺さずにはいられないという、究極の矛盾に苛まれた愛する人の顔を見ながら死にたい。
「‥‥‥ふふ」
殺し合いの中での下品な笑い声よりも低俗な笑みが溢れた。
その声に反応したのか、ローファさんが目を覚ました。
「おー。お疲れ、異常者」
まだ6時間しか寝ていないが、元気そうで安心した。
身体は健康でいてもらわないと、俺を殺せない可能性が1%はあるからな。
さて、こうなってきたら、ローファさんのことを知っておく必要がある。
今でも充分好きだが、愛情が深いほど殺されたい時の気分は高まる。
「ローファさんは、何者なんですか?」
今更すぎるし、唐突すぎる質問に眉を顰めることなく、ローファさんは淡々と答える。
「世界征服しようとしてる悪い人だよ」
「‥‥‥」
予想より強いワードが出た。
世界征服。
魔王軍の幹部とか、勇者一行から追い出された隠居さんとかだと思っていたから、低学年の小学生みたいなワードの登場に少しビビった。
しかし、それと同時に。
俺を殺す女なスケールがデカいことが嬉しくもあった。
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