第5話 殺し愛

大蛇に勝っても俺が得るものは、特にない。

ただ、異世界転生をしていきなりボコボコにされた借りを返せるだけ。


復讐の類は、コストの割にリターンが少ない。


そういえば、前の世界の馬鹿パートオジサンに怒鳴られている時は、ムカつきはしたが怒鳴り返してやろうとは思わなかった。


何故か。

あれと同じ行動をとりたくなかったからだ。

小さな子供の癇癪と大差ない、あの行動を取ることが恥ずかしかった。


でも、今回の大蛇にはその恥は感じない。

あいつは、『地獄に最も近い森』とかいう名前がついてしまうくらいの危険な森で、獲物を狩っていただけだ。

そして、俺が反撃したのに応戦してくれた。

殺そうとしたら殺し返される覚悟があの大蛇にはある。


だから、あいつとの決着をつけることには、得るものもないが恥もない。

\



「大蛇が寝てそうな広い場所を探してみるか」


そう言ったローファさんについて行っただけで、あいつと再開できた。


間違いない。あの大蛇だ。

道中、同じような大きさの蛇を見たてもピンとこなかったが、こいつはドンピシャだ。


気持ち良さそうに寝ているが、関係ない。全力で大蛇に駆け寄り短剣で眼球をブッ刺そうと試みる。


「ぎじゃあぁおぁぁ!!!」


しかし、さすがの大蛇。辛うじて危機を察知して身を守る。しかし、眼球を回避することに成功したが、唇にブッスリと刺すことができた。


「よっしゃああぁぁぁ!!」


脳汁が出るという表現はこういう時に使うのだろう。ダメージを与えられた快楽により、もっともっとと、大蛇の顔面を刺していく。


「ウキャキャ!!」


自分が今まで出たことない笑い声を上げているのを、前回にも経験した俯瞰で見るゾーンに再び入った。


もちろん、大蛇がこのままやられっぱなしなわけがなく、楽しそうにグサグサ刺している俺に体当たりをかます。


吹っ飛んで木に身体をぶつけた俺は、地面に足がつくと同時に大蛇の元へ駆ける。


たぶん、肋骨辺りは折れているであろう状態での全力疾走である。


噛みつかれることを回避して、今度こそ眼球をさせるように集中する。

しかし、俺は眼球を刺すことに謎の情熱を燃やしているな。何故だろう。


「ごおぉおぉぉぉぉぉぉぉ‥‥‥」


そんなどうでもいいことを考えてたら、大蛇が火を吹いた。


マジか。前回はそんな魔法使わなかったのに……。

でかい口をめいいっぱい開いて発した火吹きに、俺は全身を黒焦げになる。


「か‥‥‥かは、か、か」


熱い以上に息ができないことがマズイ。短剣はまだ握りしめているが、すぐに腕を動かせそうにない。

大蛇がダメ押しの尻尾攻撃を仕掛けてくる。


あぁ、さすがに終わったな。

ちょっと不満だけど、殺される相手はお前で我慢するしかないか。


「ヒール」


そう諦めた瞬間、聞き覚えのある声と共に、俺の身体が再び動く。


ごめん。

やっぱり前言撤回。

まだお前のこと、愛しきれてないや。





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