#10 贖えるものたち
ためらわずに、サファイアとルビーはシンクロしてトリガーを引いた。
「「
経験者なのか射撃精度は思いのほか高く、1発目はアッシュの眉間を撃ち抜く。続けて2発、3発と弾丸はアッシュの心臓部に命中した。
アッシュは血潮を噴き出しながらドサリと氷上に倒れる。
シスターたちの悲鳴が上がるなか、
「アッシュさん!」
と、ひときわ大きな桃色の声が灰色の仮名を呼んだ。
「アッハッハッハ!」
一通り
「これだけ撃ち込んでもヴァンパイアは死なないのかしら? ねえ、どうなの?」
全裸のアッシュはむくりと不気味に起き上がる。
そして言う。
「死なねえぜ」
ひまわりのように快活に笑うアッシュ。
「つーかだぜ。死なねえんじゃなくて、死ねないんだぜ」
サファイアは不審に思う。
雰囲気が明らかに変わった。
よもや別人と思えるほどに。
そして驚くことになんとアッシュの髪型が爆発したようなアフロヘアーになっているではないか。
全身に帯電する黄。
アッシュの髪、肌、瞳には電流が走っていた。
サファイアは漆黒リボルバーのシリンダーをのぞき込むと、カットレモンのような黄色い弾丸が装填されていた。
「1発でも充分だったぜ。なのに3発も撃つかだぜ、普通」
アッシュは頭を振ってから、花びらのように開いた空薬莢をペッと手のひらに吐き出す。
眉間や胸部の銃創はすでに塞がっていた。
「おかげで、アフローの影響が色濃く出たぜ。髪もすこしだけクセっ毛になってしまった」
「すこし……?」
サファイアが不服そうな視線をアッシュに寄越していた。
するとアッシュの後ろから透明感のある声が注釈を入れる。
「その弾丸はちと特別製でな」
模型くんの膝の上にちょこんと座る魔女は丁寧に説明する。
「名を『
サファイアが魔女を一瞥して――戻した瞬間。
――もうアッシュの姿は捉えられなかった。
「『♯FFFF00』」
ビリビリリリリ!
と、静電気がサファイアの肌を駆け巡る。
慌てて後ろを振り向くと、すでにそいつは肉薄していた。ルビーの赤い首筋にアッシュは鋭利な犬歯で咬みつく。
「ひっ」
咄嗟にサファイアは後ずさるが、吸血されたルビーは意識を失いバタリと倒れた。
じゅるり。
と、アッシュは赤い鮮血を手の甲で拭う。
またたく間にアッシュの身体には炎のような
「あなた……何者?」
サファイアの瞳は戦慄の色で染め上がった。
しかし返答せず、アッシュは無言のままサファイアにぐんぐんと近づいていく。
「こ、こっち来るなあ……! 変態! エッチ! スケベ!」
「サーお姉ちゃん……じゃなくて、サファイアちゃん」
アッシュは赤い髪を掻き上げたのち、言い直した。
「きみたちを見てると、昔のあの子たちを見ているようで僕は悲しいよ」
だからきっとほっとけないんだ。
でも、もう終わりにしよう。
サファイアの血色によっていくら氷の刃が吹き荒れても、アッシュはけして歩みを止めない。
「『♯FF0000』」
アッシュがそう唱えるだけでたちまち紅蓮の炎が上がり、氷は解凍され、やがて蒸発した。アッシュを中心として氷は溶けていき春の訪れを感じさせる。
「どうしてあんたがルビーの血色を使えんのよ!」
「さあ、どうしてだろうね?」
とぼけたように言うアッシュ。
続けざまにアッシュは唱えた。
「『♯666666』――【
すると懺悔室前の溶けた永久凍土の下から不死猫ニジーの遺灰がサラサラと宙を舞う。その遺灰はアッシュの手元に集約して抜き身の灰刀を形作った。
「この灰燼刀は目には見えないものだけを斬れる。絆と記憶、愛と勇気、嘘と感情、心や魂すらも断ち切れる名刀だ」
3色を纏う手でアッシュは灰燼刀の
その碧い瞳には恐怖と虚無しか映っていない。
「おまえの血は何色だ?」
深淵にそう問うてから、鏡にも瞳にも映らない男は
ブルーの少女はブルブル震えると蒼い太ももには伝うものがある。足下に湯気の立ち昇る水たまりが広がっていくと、同時にアンモニア臭が立ちこめた。
「……化け、物」
「ああ、知ってる」
誰よりも自分が知っていた。
「ありがとう。自己紹介する手間が省けた」
名もなき怪物は灰燼刀を振り下ろす。
「僕とともに
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