#4 パンパンのアフロー

 ブラック刑事の主導によりアッシュは昨日ぶりに礼拝堂に向かう。

 昨日に引き続き、床は水浸しだった。

 そんな最後方の一画にはとある人物がひとり。


「誰か助けてくれだぜえ! コスモちゃん、オレはおしっこをちびりそうなんだぜ!」


 セクハラまがいのことを訴えるアフローがロープで縛られていた。


「誰だ? このいかにも犯人そうな奴は?」


 ブラック刑事は訝しげに葉巻でアフローを指す。


「そ、その制服はまさか! 通りすがりにオレを捕まえにきた刑事なのかだぜ?」

「そうだ、俺が通りすがり刑事だ」

「待ってくれだぜ! オレはちっとも怪しくなんてないんだぜ!」

「じゃああの焼死体は何だ? 説明してみろ」


 ブラック刑事の指差す先には白い布の被せられたタイツの遺体が横たわっていた。

 完全に鎌を掛けている。


「タイツという少女に恨みがあったんだろ? そうなんだろ?」

「昨日今日、会ったばかりであるわけないぜ」

「ついカッとなってやったんだろ?」

「やってな……てか、あれ、タイツちゃんなのかだぜ?」

「そうだ」


 ブラック刑事の言葉を聞いた途端、アフローはポロポロと涙を流した。


「クソ、おまえが殺したくせにヘタな芝居打ちやがって」

「オレは何も知らないんだぜ! 目が醒めたらオレは異臭に包まれた礼拝堂に放置されて、おかげで昨晩は一睡もできなかったんだぜ!」

「嘘つけ、ゴラァ!」

「嘘じゃないぜ。オレを信じてくれだぜ!」


 ブラック刑事の銃口のような黒い瞳はアフローに突きつけられる。


「サンダーモンキー、それならどうしておまえはロープで縛られてんだ?」

「……ギクッ……それはだぜ」

「そのアフロは見せかけか? ああ? サル並みにしかおまえの脳味噌は発達してねえのか? どうなんだ、答えろよ! なあ! おい!」

「もういいだろう。ブラック刑事」


 アッシュは尋問されるアフローを見てられなかった。

 というよりは、刹那せつなで口を割りそうだったので止めた。


「アフローにはどの事件の犯行も不可能だ。昨日の夜からずっとここに縛りつけられていたんだから」

「チッ、使えないイエロー野郎かよ」


 ブラック刑事は悪態と一緒に紫煙を吐く。


「オレは本当に通りすがっただけで……タイツちゃんがこの世を去ったことも知らなかったんだぜ。ちゃんとお別れしたかったぜ」


 アフローはグチグチ弁明を続けた。


「アフロー、僕からひとつ訊きたいことがある」


 余計なことを口走る前にとアッシュは問う。


「昨日の晩から朝方にかけて、この礼拝堂を訪れた怪しい人物はいなかったか?」

「オレは何も見てないんだぜ。幽霊ってわけならいざ知らずだぜ……って、まさか! タイツちゃんの幽霊がこっそりと……だぜ」

「タイツに変な濡れ衣を着せないでください! この変態!」


 コスモナウトがビシッと言い放つ。


「それだとオレが最初にこの礼拝堂で見たのはコスモちゃんとピエロの旦那だぜ。焦りながら入ってきて……って、マジでおしっこ漏れそうなんだぜ! この縄をほどけだぜ!」


 騒ぐアフローを尻目にアッシュは思考を巡らす。


「ってことは、部屋の鍵を所持できた人物はやっぱり存在しない。となると、どうやって犯人はチェリーくんとアイスくんの部屋に侵入して殺害したのか。どちらの部屋も鍵が壊された形跡はなかった。どころか、アイスくんの部屋にいたっては施錠されていた。そして、なぜチェリーくんの死体だけ浴室に運んだのか?」


 模型くんは何かを言いたそうに身振り手振りしているけど……。

 アッシュにはいまいちピンとこない。

 模型語を訳せるコンニャクとかないのかよ。コンチクショウ。


「模型くん、アフローがうるさい。早く自由の身にしてやってくれ」


 模型くんに縄を解かれている最中、


「あっ」


 と、アフローは天に召されそうなほど恍惚の表情を浮かべた。

 ややあって礼拝堂の白い大理石に薄く黄色いシミが広がっていく。


「うへっ、漏らしやがった! 何やってんだ、このイエローバカ!」

「清廉な教会を冒涜しないでください!」


 ブラック刑事とコスモナウト、両サイドから責め立てられるアフローであった。

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