廻らない世界に君だけが踊っていた
津田ユウト
7月13日
ピピピ……
ピピピ……
ピピピ……
「はっ……」
7月13日9:30の朝。
カーテンに遮られた窓から射し込む微かな光で、僕は目を覚ました。
長い夢を見ていたような気がする。
「ん……」
ゆっくりと起き上がり、今日という日を始める。
いつものように歯を磨き、いつものように朝ご飯を食べ、いつものように祈りを捧げる。
「In the name of the father......」
それが終わったらいつものように出掛ける。
空を見上げる。
雲はいつも通りの位置にある。
耳を澄ます。
音もいつも通り鳴り響かず。
周りを見る。
人の姿がいつも通り在らず。
いつも通りの孤独。
いつも通りの平穏。
幸福だ。
見上げるビル群に反射する空の色が青く、美しい。
僕は薄暗いアパートから出て……
廻らないこの世界に一歩踏み出した。
◇ ◇ ◇
歩く。
歩く。
歩く。
僕の一歩一歩が世界に鳴り響く。
歩く。
歩く。
歩く。
通りかかる。
どこか懐かしい建物の数々。
歩く。
歩く。
歩く。
ソフトクリーム屋を見つける。
店主のいないソフトクリーム屋。
客のいないソフトクリーム屋。
あるのはその店を見守るノームの像。
僕はそのソフトクリーム屋に入る。
コーンを取り、マシーンのレバーを下げる。
出てくるのは白色の冷たいお菓子
子供も大人もよく知るソフトクリーム。
子供も大人も大好きなソフトクリーム。
一口。
それは冷たく。
一口。
それは優しく。
一口。
それは甘く。
僕が良く知るソフトクリーム。
子供の頃から良く知るソフトクリーム。
大人になっても良く知るソフトクリーム。
コーンまで美味しいソフトクリーム。
食べて無くなった。
まるでシャボン玉のようで。
まるで夢のようで。
幸福な一時。
ノーム像に別れを告げて。
僕は再び歩き出す。
歩く。
歩く。
歩く。
歩き続けて別の足音が聞こえる。
歩く。鳴る。
歩く。聞く。
歩く。求める。
求める。
僕以外の音を。
探す。
僕以外の心を。
探す。
僕以外の人を。
音を求め続けてたどり着く。
古い。
弱く。
今にも倒れそうな建物。
看板にはシアター。
劇場だ。
足音が僕を呼びかける。
足音が僕を動かす。
足音が僕を誘う。
劇場に入る。
ただ音を求めて。
入った先は空の劇場。
観客がいない。
音楽もない。
ただ役者がいた。
たった一人の役者。
長い黒髪の踊り子。
彼女だ。
彼女が音の主だ。
彼女の一歩に歓喜した。
彼女の一歩に感動した。
彼女の一歩に息を呑んだ。
近づく。
少しずつ。
出来れば彼女の一番近くの特等席に。
あと少しのところで、
彼女は踊りを止めた。
音がなくなり、彼女の瞳は僕を見つめた。
その深い茶色の瞳を見つめていたら、
僕は深い眠りに落ちていった。
廻らない世界に君だけが踊っていた 津田ユウト @TsudaAyuuto
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