第2話
「え、あ、あの……」
突然の「カミングアウト」に、
もちろん、このリアリティ・ショウにおいて、そんな告白にはほとんど何の意味もないことは彼女も分かっていた。
これは、百合と非百合……敵対する二つの派閥が、お互いを欺くことで生き残ることが出来るゲームだ。
特に、この最終回で百合二人と非百合一人が残っている今の状況では、各陣営の立ち位置ははっきりしている。
百合側は、自分以外のうちのどちらかの非百合を見つけて、百合二人ともがその人物に投票する。
非百合側は、自分以外のどちらか一人を、もう一人の百合に非百合だと誤認させて、自分と合わせた二票で排除する。
それが、勝利条件となる。
だからこの状況では本当の百合も、非百合も「自分は百合だ」と言うしかなく、その言葉は情報量を持たない無意味な発言なのだ。
しかし……。
「……」
先ほど、まさにその言葉を言った女性――
緊張からか体は小刻みに震え、頬を紅潮させ、目には涙をためている。
その様子からは、誰かを騙そうという悪意なんて微塵も感じない。心のそこから、その言葉を言ったとしか思えない。
「……」
そう感じた千草は、自分もその言葉に応えることにした。花火の誠実な言葉に、自分も誠実に返すことにしたのだ。
「あ、あの……わ、私も……」
しかし、花火がそれを遮る。
「いいです! あなたは、言わなくていいです!」
「え?」
「これは、私が自己満足で言ってることなんです。だから、あなたはただ、私の言葉を聞いてくれるだけで……」
それから花火は、さっきの自分の言葉の意味を教えるように、続けた。
「さっきも言ったように、私は百合です。ということは、あなたともう一人の人のどちらかが百合で、残る方が非百合……ですよね? そして、百合の私はそのどちらが百合かを当てて、今夜の投票で、そうじゃない方に投票しなくちゃいけない……でも、」
そこで言葉を切って、少しはにかむように微笑む花火。
「私……もう、そういうの疲れちゃったんです。誰が百合で、誰が百合じゃない、とか。百合が生き残るには、誰かを蹴落とさなくちゃいけない、とか。どうして、こんなことしなくちゃいけないんでしょうね? 私は、ただ誰かを好きになっただけなのに……。それが、たまたま女の子だった、っていうだけなのに……」
「……」
微笑みながら、花火は涙を流している。
日の出とともに雨があがった夏の朝のような、爽やかな表情だ。
その笑顔に魅せられて、千草は言葉を失う。
「だから私、これから先のことを、あなたにお任せすることにしたんです。私は今夜、あなたではなく、もう一人のほうの人に投票します。もしも、あなたが私と同じ百合で、私のことを信じてもらえるなら……あなたもその人に投票すれば生き残れます。そうすると、優勝者の特典として私とパートナーになっちゃって……それは嫌かもしれませんけど……」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
千草が、慌てて口を挟む。
「そ、そんなこと言って……もしも私が非百合だったら、どうするつもりなの⁉」
それは、当然の反論だろう。もしも千草が非百合だった場合、百合の彼女が「今夜誰に投票するか」を教えてしまうのは、命取りになる。
しかし、花火はまた微笑んだ。
「ええ。もしもあなたが、非百合だったなら……あなたが私と同じ人と投票して生き残ると、私は処刑されてしまいますよね? それで、構いません。……っていうか、そうなって欲しいのかも」
「ど、どうして……」
「だって、そうなればあなたは大金をもらって幸せになれる。それは私にとっても幸せなことなんです。私、あなたが決めたことなら、どんな結果だって受け入れられるっていうか……。だって私……あなたのことを……」
そう言った花火の笑顔は、誰がどう見ても、恋する少女だった。
それからすぐに、花火は逃げるようにその場を立ち去る。しかし、その言葉に衝撃を受けた千草は、その場をなかなか動くことが出来なかった。
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