第51話 SIDEカレン
最近のロックとの訓練では、ただ単にロックからボコられるのではなく、本格的に魔法で戦うための訓練にシフトしていた。
ただ、ロックの魔法は基本的に、相手の魔法を無効化する事、一撃で対象を無力化する事、そして、一撃で確実に相手を仕留める事の三つに特化しており、エレメンタリストとしては完全に失格と本人は言うけど、つまり良く言うなら、規格外すぎてまともなエレメンタリストとしての敵役としては不都合、とあたしは解釈している。
実際、対エレメンタリスト用の訓練として、ロックに雷属性の放出系だけで戦わせれば、あたしでも充分に食らいつけている。それでも完全に勝てた事が一度も無いのは、実戦経験が豊富で頭の回転も速いロックと、基本的に強魔法によるごり押ししか能のないあたしとの基本性能の差なのだろう。
「アークナイトとしての戦い方もずいぶんと様になってきたな」
「うん。身体強化を行使しながら動いていても、一属性なら完全に扱えるようになってきたわ。複数の魔法を同時に使える感触は未だに無いけど」
「エレメント系の多重詠唱は超高等テクニックだからな。世の中にはできる奴も居るらしいが、実際にお目に掛った事は無いな。俺も出来ない」
「あなたにも出来ない事があるって聞くと安心するわね」
「そうか? 出来ない事の方が多いぞ。ただ、俺には理想とする戦闘スタイルが最初からあって、明確な目標に向けて論理的に鍛えてきたのが、俺とあんたとの違いだな」
「魔法力を高める事と、得意属性を伸ばす事しか強くなる手段が描かれていなかった原作を信じ切っていたあたしやドレッドは間違っていたわけよね」
でもね、あたしみたいな元一般人のオタクが、ロックみたいに出来るなんて無理じゃない?
ロックみたいに科学的に分析して魔法を使うって時点で、あたしからしてみれば難易度が高すぎる。
それにロックは科学的なトレーニングにも詳しい。ロック曰く、体の弱かった前世の自分にとっては憧れだった。もし病気が完治したら体を鍛えたくて、家庭教師の一人が詳しかったから教えて貰っていたし、その人からプレゼントされた書物から知識だけは取り入れていた、という事らしい。
実際さ、アークにやらせてる紙のトレーニングみたいなのとか、体幹トレーニングとか、真面目にやってるファンタジー主人公なんて見た事ないもの。努力の描写があっても、魔力を鍛えたり、ひたすら敵と戦うだけ。
レベル制でもないこの世界で、現実になった今、強くなるために本当は何が必要かなんて、普通のオタクに分かる訳ないわよ……。
パパやお兄ちゃん達なら知ってたんでしょうけど、今更に「いやぁ、カレンたんを実戦に出す気が無かったからねぇ」とか言われたし。あたしが一生懸命に熟練度上げに勤しんでいるのを微笑まし気に見られてたなんて、いっそ恥ずかしいわ。
単純な魔法の総合熟練度だけなら、天才的な基礎熟練度ホルダーのロックだったけど、得意属性じゃなかった雷属性や地属性を伸ばしてきたせいで、あたしとの差は殆ど無いって事らしいし、実際に戦っていて、あたしもそれは感じている。なのに戦闘力に差がありすぎるのは、結局ファンタジー脳じゃダメだったって事なのよ。
「魔法力が高ければ、同レベルの魔法行使に必要な詠唱時間も短縮される訳だし、問答無用で敵を殲滅できるから、間違っていたとは必ずしも言い切れないだろうが、魔法力の向上なんて、ある程度の限界は最初から見えている。そもそも、完全なエレメンタリストがソロという時点で相当な無理があるぞ」
これも以前にロックから聞いた話で、世の中のエレメンタリストは、基本的に前衛職とパーティーを組んでいるのが殆どだそうで、あたしみたいにソロで戦おうとするような奴はまず居ないらしい。
原作じゃそんな事は記述に無かったけど、カレン・ファルネシアの戦闘の描写のある時は常にアークが一緒に戦ってたものね。違うのは学年末のクラス対抗戦の時くらい。その時にカレンがアークを本格的に認める訳だけど。
「幸いあんたはアークナイトだったから、その限りじゃないがな」
「あたしとあなたで連携訓練とかはしないで良いのかしら?」
ドレッドに魔族が憑依した時だって、先にそれをしていれば、あたしだって少しは役に立てたかもしれないのに。
「それはもう少し成長してくれてからでないとな。今のあんたじゃ、俺が苦戦する相手になったらただの足手纏いだし」
「ひどっ!? 言い方ぁっ!」
泣くわよいい加減!
「そうむくれるな。ふむ、そろそろ実際に戦ってみるか? 相手は魔物だが」
「え?」
「ちょうどそろそろ一度、王都の冒険者ギルドに顔を出しておこうかと思ってたところだ。もう当分の間は魔法学院に居ると腹をくくった以上、適度に仕事はこなしていこうと思うしな」
「でもあなた、ゴールド級でしょ? あたしまだ冒険者ギルドに登録もしてないし、当然ランクなんて無いわよ?」
「依頼を受けた冒険者の仕事の助っ人に制限なんて無い。あんた自身がランクを上げたいなら、俺と一緒に仕事をしているだけじゃダメだがな。だが、既にあんたのレベルは、条件付きだがゴールド級に匹敵する」
「そうなの!?」
「言っておくが、俺は戦闘力だけなら下手なプラチナより強いと思うぞ? プラチナは数が居る訳じゃないから、他のまでは分からんが、以前に唯一会った事のあるプラチナ級の冒険者には負ける気がしなかった。実際、魔族に憑依されていたドレッドは完全に平均的なゴールド級じゃ手に負えない相手だったしな」
ロックに手も足も出ずに負けて絶望してたけど、やっぱりあたしって弱くはなかったのね。幼い頃からの努力は一応報われていたんだ。
でも、ドレッドに憑依した魔族の件からして、原作より敵も強そうだし、油断は出来ないわね。
しかし、それにしても……
「……あなたやっぱり、世界最強なんじゃないの?」
「さあな」
相変わらず、自分が世界最強とかには本当に全然興味が無いのね、ロックって。
「まあ、そいつは対モンスター戦特化っぽかったからな。それなりに対人戦も出来はしただろうが、単純に対人戦闘能力で冒険者としての価値を比較できるものでもない。俺は基本的に対人戦特化で、一般的な冒険者としては微妙というのもある」
「そうなの?」
「一定以上のレベルのモンスターは、生命力が人間とは桁が違い過ぎて、俺の水魔法はほぼ役に立たないからな。そういう相手は力ずくで叩くんだが、それならあんたでも大して変わらん」
脳筋馬鹿と言われた気がしないでもないわね。
でもいいわ。ロック相手に模擬戦ばかりしていても、あまり成長の実感が無くって、ちょっと腐りそうだったし。冒険もしてみたいしね!
「で、どうする?」
「やる!」
「なら、次の週末にデートだな」
「いやに殺伐としたデートね」
「俺達らしいだろ」
一応、ちゃんと恋人同士だとは思うけど……普段している事と言えば、ロックにボコされるばかりで、全然甘い雰囲気にならないしね。
いや、初心なあたしにロックが合わせてくれてるだけで、彼が本気で口説きにきたら、多分あたしなんか秒殺されちゃうんだろうけどさ。
そろそろキスくらい許して上げた方がいいかなぁ? っていうかキスしたい! エッチはまだ勇気が足りないけど、キスはすっごくしてみたい!
「ん? どうした?」
「い、いえ……何でもないわ」
でも、いざ自分からしてと口にするのはこれまた非常に勇気が……。
ロックから迫ってくれれば、次は素直に受け入れようって覚悟がもう決まってるのに、ロックってば意外とそこら辺に律儀っていうか、ちゃんとあたしの事も考えてくれているのよね。
そういうところがますます好きになっちゃうんだけど……この冒険デートで良い雰囲気作って、自然とキスまで行けるように頑張ってみよう!
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