第16話 SIDE???

SIDE???


 くそっ、くそっ、くそっ。


 何で俺様があんな無様な姿をさらさなきゃならねーんだ。完全に踏み台転生者ムーブだったじゃねーか。


 違う。俺様は選ばれし存在なんだ。じゃなきゃ転生なんて奇跡に巡り合えた意味がねーじゃねーか。


 前世の俺様はいじめられっ子だった。思い出すのも忌々しい。それで自殺したら、こうして転生してた。生まれ変わった俺はデストラント・サーガの世界だとすぐに気付いた。才能にも恵まれていた。こんな俺様が主人公じゃない訳ねーだろ? いじめられっ子が覚醒して立場逆転するなんて定番だろうが。


 今まで俺様を下に見てた野郎共を、逆に見下してやる権利が俺様にはあるんだよ。


 実際、これまでは全て俺様の思い通り、快適に過ごせていた。俺様に敵う奴なんて居なかったし、冒険者としても既にブロンズ級だ。俺様の年齢でブロンズ級って、世界でも数十人しか居ないはずだ。


 まあ、早くカレンに会おうと実家に突撃したら警備に軽くあしらわれてキレそうになって、渋々諦めたり、エミリアや他のヒロインはこの時期どこに居るのか、作中に具体的な地名の描写が無かったせいで、原作前に落とす事は出来なかったが、原作中じゃないとフラグの建て方が正しいか分からねーから、それはいい。


 だが、あの捨て石野郎まで転生者なんて聞いてねーぞ、ふざけやがって!


 あの捨て石野郎。図星を突かれて怯んじまったが、何で分かったんだ?


 圧倒的な力の差で叩き潰せる雑魚以外相手にした事がねーだと? バカにしやがって。違うね。俺様以外は雑魚しかいねーんだよ! なら雑魚しか相手にした事がなくて当然だろーが!


 俺様の『超必殺究極アルティメット正拳突き』まで簡単に避けやがって。毎日200回の正拳突きの鍛錬だけは欠かしてねーってのに。俺様は捨て石野郎と違って努力できる男だからな。


 他の訓練? 魔力を高めるだけで充分だろ。究極の必殺技さえありゃ、他なんてオマケよオマケ。器用貧乏より一つの究極必殺技。そんなの常識だろ。究極の必殺技を持った主人公に勝てる奴が居る話なんか見た事ねーだろ?


 いや、きっとあの野郎、何かチートを持ってるに違いねぇ。鑑定か、あるいは解析の魔眼とかか? 俺様の攻撃を避け続けたあたり、未来予知とかかもしれねーな。


 俺様には何も与えられなかったから、ちゃんとこの原作世界のルールだけで生きてるってのに、ずる過ぎだろう。膨大な魔力と属性適性? そんなの転生者である以上は当然の権利だろうが。


 エミリアも、カレンも、他のヒロイン達も、何ならシャロンだって、全員俺の女になるべきなんだよ。


 特にカレン。リアルになったらどんな感じになるのか期待してたが、ありゃ最高だな。ガチでハリウッド女優ばりじゃねーか。あの巨乳を鷲掴みにしながら思いっきり腰を振ったら、さぞ気持ちいい事だろうよ。


 カレンの落とし方は心得てる。相棒として背中を預けられる実力者と証明さえできれば簡単に落ちるはずだ。


 だがそのためには、さっきの無様な姿を払拭しなけりゃならねぇ。そのためにはあの野郎をカレンの目の前でぶちのめす必要がある。何としてもだ。


 ちっ、原作初手のシーンで一気にエミリアとカレンを手に入れようと考えて、原作主人公が現れる前に突っ込んだってのに、とんだミステイクだったぜ。


 どうせいずれ殺す相手なんだから、とっとと半殺しにして原作の魔族が現れる展開に持っていこうと思ったのによ、まさか転生者が俺様以外にも居て、しかも原作キャラだったとはついてねぇ。


 原作通りに進めるためとは言え、あんな雑魚に負けるのは癪だからな。傲慢でムカつく野郎だし、原作みたいに何度も目の前をうろちょろされて挑発されるのも我慢ならねーから、しばらく身動きできねーようにしてやりたかったんだが、まさか転生者だったとはな、くそっ。


 だが、カレンはともかく、エミリアはあそこで捨て石野郎から助けないと、そもそもフラグが建たねーからな。そこを原作主人公に持って行かれるわけにはいかねぇ。


 しかし、そう言えば、何で既にカレンが居たんだ? 本来、シャロンが現れるタイミングで現れるのがカレンだったはずだろう。


 まあ細かい事はどうでもいいか。それより何より捨て石野郎の始末だ。


 だが奴は貴族で、俺様は平民。下手に証拠が残るようなマネをすれば、間違いなく死刑一直線だし、俺様の実力なら逃げるくらい訳ねーはずだが、それじゃカレンをモノに出来ない。本末転倒だ。


 そもそも、カレンの目の前でぶちのめさなきゃ意味がねーしな。カレンを落としてからなら、捨て石野郎を殺して黙らせる事もできるかもしれねーが、それじゃ手順が逆になる。カレンの攻略方法は『相棒として頼れる男』と思わせる事以外に思いつかねぇ。


 いっそ強引に犯して調教しちまうか?


 いや、リスクが高すぎる。相手は学院長の娘にして、侯爵令嬢。失敗した時のリスクは、捨て石野郎の暗殺以上にヤバい。家族は親バカ兄バカ揃いだし、他国に逃げ出しても死ぬまで追い掛け回されるだろう。国と喧嘩して勝てるとまで自惚れちゃいねーよ。俺様は現実主義者リアリストなんだからな。


 だが、どうやって捨て石野郎をぶちのめせばいいんだ?


 本当に未来予知だったら、マジックウォーリアーの俺様とは相性が最悪過ぎる。エレメント系は適性が全くねーんだよ、くそっ。エレメント系なら、逃げ場も無い大魔法で一気に攻め落とす事も出来ただろうによ。神様も気が利かねぇ。神様転生したわけじゃねーけどな。


 ぜってー許さねぇぞ、捨て石野郎。何としてもてめーだけは目にもの見せてやるからな!










SIDE???


 うーん。やっぱこの世界、ただのファンタジーじゃなくて、何かしらの原作が存在するアニメとかゲームとかの世界なのかな。仕事が死ぬ程忙しくて、というか実際過労死したわけだけど、もうすっかり二次元からは遠ざかってたからなぁ。原作が存在するなら知っておきたかったよ。


 さっきの連中、僕と同じ新入生にしては凄い動きしてたし、争ってた二人も、その原因っぽかった女子達も、凄い美形揃いだったし。原作が存在するなら絶対原作キャラだろ。その点に関しては僕も負けてないけどね。


 ま、僕に掛かればあんな連中、全然敵じゃないけどさ。避ける余地も無い大魔法一発で即終了だよ。


 僕の適性属性はたった一つだけど、それ一つで充分。何せエレメント系最強の光属性なんだからね。特化してる分、出力は僕自身の膨大な魔力と相まって、下手したら既に世界最強なんじゃないかな? いや、きっとそうに違いない。


 あまり実力者だと思われると面倒事に巻き込まれるかも知れないし、本気を出すつもりは無いけどね。ちょっとくらいなら見せて上げても構わないけど、あまり目立ちたくない。僕は謙虚なんだ。


 どうやって学園生活を過ごそうかなー。やっぱり可愛いカノジョは欲しいよね。さっきの騒ぎの中心人物っぽかった子達の小さな方とか凄く好みだったな。


 金髪の方は凄い美人だったけど、気が強そうだから、ちょっと苦手かも。あっちがどうしてもって言うなら付き合ってあげない事もないけどね。


 先生も美人だったな。あの人が担任だったら嬉しいけど。


「うわっ」


「あっと」


 考え事しながら入学式の席に着こうとしたら、隣りの男子とぶつかっちゃったよ。


「ごめんごめん。考え事してぼーっとしてた」


「いや、いいよ」


「あれ? キミ、さっきの騒ぎの最中にも僕の隣りに居たよね。いつの間にか姿が消えてたけど」


「ああ、それ? 喧嘩してた二人を止めようと思ったけど、僕じゃどうにもならなそうだったから、先生を呼ぼうと思って探しに行ってたんだ。先生からは、そのまま入学式に向かえって言われてさ、心苦しかったけど、僕じゃどうせ役に立たなかっただろうし」


「賢明な判断だと思うよ。既に専門的な訓練を受けてる貴族だって言っても、あの二人は明らかに新入生のレベルじゃなかった。でも、首席合格はカレン・ファルネシアって、学院長の娘さんだって話だし、やっぱり凄い所なんだね、ここ」


「だねぇ。ついて行けるか今から不安だよ」


「ふふ、そうだね」


 凡才は大変だね、と言う本音は黙っていてあげた。優しいからさ、僕は。


 ま、本当は僕の方がずっと凄いけどね。入試じゃ大分手加減しちゃったし。


 それにもしかしたら、学院長の娘って事で忖度されたのかも知れない。てか、多分忖度じゃないかな。そうじゃなきゃ、手加減してたって僕に勝てるわけないと思うよ。


 もしくは、実は平民はランキング対象外とか? そんな話は聞いてないけど、いかにもありそうだよね。


 やっぱ一度は本当の実力ってのを教えておく必要があるかなー。調子に乗られるのはムカつくし。


「明日は貴族平民問わず、全員合同で魔法実習を行う。今の自分がどのレベルなのか、また、自分より上の人物はどんなレベルなのかを知り、慢心する事なく、より高みを目指して欲しい」


 学院長さんの話の最後に言われた内容に、これだと僕は目を輝かせた。





―――――――――――――――――――

一人分じゃ短いので二人分。初めて本文中にSIDE表記使いましたね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る