突然始まることもある、異世界間話

 これはユウ達が生きる異世界のどこかで起きた、いつかの話


————————————————————



 俺の名前はガンズロック、ひょんなことから異世界に転生させられた独身男性27歳だ。

 ちなみにこの名前は俺が付けたわけじゃない。

 俺は前世、ごく普通のサラリーマンをしていたのだが、ゲームの発売日に合わせて有給をとり、特典付きのゲームソフトを手にほくほく顔で帰宅していると、公園で遊んでいた幼い子供が親の目が離れた隙に車道へ飛び出す場面に遭遇した。

 そしてそこに運悪くトラックが猛スピードで近づいてくるのに気づいた俺は、ゲームソフトを手放し、幼子の下まで映画のアクションシーンさながらの動きで救出劇を披露した。

 スタントマンも目を剥くような人生初のアクロバットな動きをした俺の体は、普段から運動していないせいもあって無茶な動きに悲鳴を上げ、幼子を安全な場所に運び終えた後、石ころに躓き受け身もできないまま頭を強打した。

 そうとう当たりどころが悪かったのだろう、本能的に助からない事を理解した俺は、遠くの方で放り出されたゲームソフトを眺めながら意識を失い、この世を去った......はずだった。

 目覚めるはずがない俺が目覚めたのは、見渡す限り白い空間。

 そこにポツンと黒髪でやたらと顔の整った少年が立っており、開口一番こう言った。


「やっぱり異世界転生って言ったら変わり種も必要だよね!」


 あ、駄目なやつだ。

 俺は早々に目の前の存在が真っ当なものでない事を悟った。

 大抵の場合、異世界転生ものでこのようなふざけた発言をする奴に碌な奴はいないと相場が決まっている。

 おそらく俺はこれから、異世界の最弱な存在、それこそゴブリンやスライムといった儚い存在に転生させられてしまうのだろう。

 そんな諦めの境地に至った俺の思考を他所に、目の前の少年は話を続ける。


「でも安心して、異世界転生でお馴染みの転生ボーナスはちゃんと用意してあるからさ。その名も隔絶結界!この世に存在する全てと隔絶し、ありとあらゆる存在、概念すらも隔てる最強の結界だよ!どうどう?強そうでしょ!」


 ああ、確かに強そうだ、だが問題はそこじゃない。

 俺が今最も知りたいのは何に転生させられるかだ。

 ちなみにその次は目の前の存在だ。

 おおよそ神様とかその辺だろうとは思うが、実は悪魔でした〜とか、世界に悪意をばら撒く存在だったら目も当てられない。

 うん?そう考えると1番最初に知らないといけないのは目の前の少年なのでは?


「そんなに自分が何に転生するか気になる?それじゃ早速その姿に変えてあげるよ」


 迂闊な事を言わぬよう黙りを決め込んでいた俺の思考を当然のように読んでくる少年が指を鳴らすと、俺の視界が少年の足元まで低くなった。


(うん?随分低いな....あれ、声が出ない?それどころか身動きもできない!?どうなってんだ!?)

「ああ、ごめんごめん。その姿だと自分の体は見えないよね、ちょっと待ってね」


 

 急に自由の効かなくなった体に戸惑っていると、少年がまたもや指を鳴らし、目の前に鏡を出現させる。

 そこに映ったのは掌サイズの石ころだった。


(あ、あの〜、石ころしか映ってないんっすけど.....?)

「その通り!道端の石ころに転んで死んだ君に相応しい姿、それこそが石ころなんだよ!」

(もはや生き物ですらない!?)

「いやいや、その体も立派な生き物だよ。これから君が転生する異世界には沢山の種族がいてね、その内の一つ、精霊族っていう種族なんだけど、まぁ詳細はあっちに行って自分で調べてみてよ。あまりネタバレし過ぎるのも面白みに欠けるからね」

(は?いやちょっと待て!?もう少し説明を!ネタバレしても怒らないから!)

「僕知ってるよ、君達の世界ではネタバレは重罪なんだよね」

(確かにそうだが!今はそんなことどうでも—)

「僕の事を悪魔だなんて疑った君には教えてあ〜げない」


 そう言って目の前の少年が背を向けると、俺のいた場所に丸い穴が空き、体が浮遊感と共に投げ出される。


(う、嘘だろぉぉぉ!?)


 俺は雲より高い位置から強制フリーフォールをさせられ、隕石の気分を味わいながら異世界の大地に降り立った。

 地面に直撃する瞬間、俺をガラスの様な幕が覆い、落下の衝撃を無効化したことで全身が砕けるようなことにならずに済んだ。

 そうしてなんとか一命を取り留めた俺は、そのまま異世界の地を1月ほど風に吹かれて右往左往し、たまたま辿り着いた森で緑色の猿にオモチャのように投げ遊ばれた後、飽きて捨てられ、さらに風に吹かれること1月が経過した。

 その時に休憩でもしていたのか、荷物を積んだ馬車と何人かの男達に遭遇し、床に置かれた荷物の中に紛れ混んでしまった。

 そのまま気付かれずに運ばれ、馬車が荷卸しをする際に俺が紛れ込んでいることに気付かれ、喋ることができないのでゴミのようの捨てられた。

 そこはどうやら小さな農村のようで、俺が紛れ込んでいた荷物はこの村への売り物だったらしい。

 俺は誰にも見向きもされず、ただ農民の皆さんが硬貨や物物交換で品物を手にしていく姿を眺めることしかできなかった。

 だが良いのだ、約2ヶ月もの間人1人いない孤独な時間を地面を転がりながら過ごしたんだ、人の気配が近くにある、それだけでこれ程までに安心するのだから。

 そんな事を考えていると、1人の幼女が物陰から商人や買い物をしている農民達を眺めているのを発見。

 何をしているのだろうと考えていると、元気に走り回っていた子供が俺を蹴飛ばし、幼女の足元まで転がされてしまった。

 近くで見て初めて気づいたが、幼女は尖った耳と輝くような金髪、そして瞳はブルーダイヤモンドのように綺麗な青色をしていた。

 俗に言うエルフっ子という奴だろうか?

 幼女は転がってきた俺に目を向ける。


(お、おう、女児とは言えスカートの中を覗いてしまってすまん。だが俺にはどうすることもできないんだ、なんせ身動きができないからな)


 声が出せないので当然幼女には伝わらないだろうが、念の為謝っておいた。

 文句なら俺を蹴飛ばした子に言ってくれ。

 すると幼女は俺の思考が伝わったわけではないだろうが、徐に俺を拾い上げると、そのまま自分の家に帰ってしまった。


(あれ?この子買い物に来たんじゃないのか?)


 こうして俺は幼女に連れ去られ、名前をつけられた。

 それがガンズロックという名だ。

 どうにもこの幼女、ラフィエルは極度の人見知りであるらしく、お世話になっている叔母さんと叔父さん以外にまともに話せる相手がいないようだ。

 そしてそれを自分なりにどうにかしようとした結果、俺に不恰好な顔を描き、お話の練習台にされてしまったのだ。

 まぁそのおかげで俺も異世界の事を(子供目線だが)知ることができているし、なんだかんだラフィエルの練習台にされるのも悪くないと思いはじめている。

 ただ、ネーミングセンスに関しては、この歳でこの名前を思いつくあたり厨二病の才をお持ちのようだ。


「はぁ.....ねえ、ガンズロック。またみんなとお話できなかったよ.....」


 そして今日も、ラフィエルのお話練習会が始まった。


「私ね、いつか行ってみたいところがあるの。お母さんの産まれた国、エウルファストって言うんだけど、そこには魔法の道具がたくさんあるんだって」


 彼女の練習台になって早半月、一向に人見知りは改善しないが、ラフィエルはよく母親の故郷の話をするようになった。


「お母さんがくれたこのペンダントも魔法の道具みたいなんだけど、どうがんばっても開けられないの」


 ラフィエラは首にいつもぶら下げている母親の形見を持ち上げる。

 彼女の両親はハンターという危険な職業についていたらしく、ある日生活費を稼ぐために依頼を受け、出先で盗賊に襲われて命を落としたのだとか。

 そして彼等の友人の商人の下に一時身を置き、彼等の妹、今お世話になっている叔母さんと叔父さんの元に引き取られたのだ。


「だからね、このペンダントの中を見るために、私はお母さんの産まれた国に行って開けてもらうの」


 それがラフィエルの強い願い。

 どんなに人見知りでも、非力でも、それでも母の故郷に行ってみたい、ペンダントの中身を知りたい。

 両親を無くした彼女の生きる理由であり、前に進むために必要な弔いの儀式。

 彼女が夜中、悪夢にうなされているのを知っている、本当は寂しい思いをしているが、優しい叔母さん達を心配させないように取り繕っているのを俺は知っている。

 俺だけがラフィエルの心からの声お話の練習を聞いているのだから。

 だから俺は、この子の力のなりたいと思う。

 この子がいつか悪夢にうなされない日が来るように、いつか彼女が母親の故郷に旅立つ時、そばにいれるように.....

 まずはこの体、精霊族とやらを知ることから始めよう。


「だけど、1人だと寂しいからガンズロックも一緒に来てくれる?」

(ああ、どこまでだって一緒にいてやるよ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

軽いノリで邪神の使徒にされました—自由にしていいと言われたので異世界楽しみます— @anisakisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ