第41話
ごろつき達の訊問を終えた俺は約束通り腕を治して同じ運搬方法で街へ戻る。
訊問している最中は一人一人個別の空間に隔離して聞き取りを行い、1人でも証言が異なれば全員まとめて肉塊にすると脅しておいたので、彼等が口にした情報に偽りはないだろう。
今回の襲撃の首謀者はハンメル商会の商会長、ハンメルだということが判明した。
ハンメル商会とはスダラーダに拠点を構える商会の一つで、他の小さな商会より少し繁盛しているだけの、そこそこ止まりの商会だ。
まぁ、こいつらのような下っ端から特定される辺り、その詰めの甘さがそこそこ止まりの商会である要因だろう。
件のハンメル商会だが、小さい商会や商人見習いのような経験の浅い者を狙った嫌がらせをごろつき達にやらせ、損害を出させたり店を潰したりしていたようだ。
さらにはそれらの者に救いの手を差し伸べるように借金や不利な契約を結ばせ、他者から金を搾り取っている。
ただのごろつきと結託したそこそこの商会程度ならいくらでも止めようはあるだろうが、ハンメルという男はどうにも貴族との繋がりを仄めかしているようなのだ。
基本的にこの国では貴族に歯向かってもいいことはない。
それこそ権力を振り翳せば庶民を殺しても揉み消せてしまえるような連中だ。
もっとも国民は王の所有物で、土地共々国王陛下から貴族に貸し与えられている物なので、下手な理由で殺そうものなら王の所有物を傷つけたとして背信行為、または叛逆にあたいするとして罪に問われることもある。
だが残念なことに全ての罪が明らかになることなんてない、それは前世も今世も同じこと。
こと貴族が絡む厄介ごとともなれば誰も口を挟もうとはしないもの、誰しも自分の命は惜しいのだからな。
もし仮にハンメル商会長が仄めかす貴族との繋がりとやらが嘘偽りであった場合、まず間違いなく軽くない罰が下るだろうが、本物だった場合は面倒極まりない。
そうなるとごろつき達を生かしておくのは自分の首を締める行為になりかねないがのだが、あまり人を殺したくない。
これは前世の価値観もあるのだが、それ以外にも理由はある。
それは、今日初めて人を殺したはずなのに何も感じていないということだ。
確かにこの世界は前世に比べて人の命は軽い、魔物狩りに参加し、命のやり取りをするようになってからはより強くそう感じるようになった。
だが、いくら魔物で命を奪うことに慣れたからと言って、人間の命を奪うのはまた別の話だ。
そのはずなのに....俺はあの時何も感じなかった、それどころかその後の展開を考えて自然と殺すという選択肢が出てきた。
合理的に、冷徹に.....
これは明らかによくない傾向だ。
今後何か起きるたびに殺人の選択肢が思い浮かび、やがて邪魔だから殺す、面倒だから殺す、癪に障るから殺すということになりかねない。
「はぁ.....今日は大人しく帰ろう....」
俺はごろつき達を解放し、蜘蛛の子を散らす勢いで逃げていく様を眺めながらそう呟く。
首謀者はわかった、襲撃者も脅しておいた、今日のところはこれくらいで十分だ、そう思うことにしよう。
そうでないと、このまま首謀者の元へ行こうものなら、その場の勢いで殺してしまいそうだから.....
宿に戻った俺は音を鳴らさぬようゆっくり扉を開き、自身の部屋へ入る。
そこでは出た時と変わらず、すやすやと寝息をたてるケイトの姿が伺える。
体は大きくなり、顔つきも幼さは少し残っているが大人へと近づいている、だが寝顔は出会って間もない子供の頃のケイトそのままだ。
家族と同じくらい見慣れた顔を覗いているとなんだか安心感を覚える。
そのままベットへと近づき、縁に腰掛けてケイトの頬を撫でる。
眠りが深いのか起きる様子はなく、心地良さそうに眠っている。
俺は徐にケイトのベットへと潜り込み、彼の腕を頭の下へと持っていく。
俗に言う腕枕という奴だ。
いつだったか暖かな日差しに眠気を誘われてお昼寝をしていた時、一緒にいたケイトが腕を枕代わりにさせてくれていた。
寝ていた場所が屋根の上という硬い場所故に、彼なりに気を利かせてくれたのだろう。
もっともケイトも日差しに誘われて眠ってしまっていたが。
同じベットで横になり温もりを感じる。
存外俺の体は冷え込んでいたらしく、ケイトの温もりが荒んだ心と共に温めてくれる。
どうせ俺の使っているベットは温まっていないのだ、このままケイトで暖を取りながら寝てしまおう。
今は人の温もりが恋しい.....
俺はそのまま目を閉じ、嫌なことから目を逸らすように夢の世界へ旅立った。
おやすみ、ケイト君。
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