第40話

 腕によりをかけて作った料理をケイトは喜んで食べてくれた。

 少々調子に乗って作りすぎたかと思ったが、食事を抜いたことによる空腹と、村ではあまり食べられないお肉の誘惑が相まって完食してくれた。

 何より「これならいくらでも食べられる」なんて言いながら頬を膨らませるケイトの姿が、食事を終えた今でも笑みが溢れるほどに嬉しい。


「美味しく食べてもらえるのっていいものだね」


 余韻に浸りながら食休みもかねて宿の外で冷たい風を浴びていると、物陰からこちらを伺う姿が視界に映る。

 夜の森に比べれば夜の街中は見通しやすい、そもそも俺の目なら森も街も関係なく見えるので今更街の暗がりに隠れたところで丸見えだ。

 宿をというより俺の様子を伺う視線は一つだけではなく、見える範囲だけでも3〜4人はいるようだ。


「はぁ、人がせっかくいい気分でいたところを.....」


 おそらく不良ハンターの一派が復讐なり偵察なりをしにきたのだろう。

 俺は気づいていないふりをして宿の中へ戻る。

 そのまま俺達が泊まっている部屋に入ると、ケイトが食後の茶を飲みながら船を漕いでいた。

 腹が膨れて眠くなったのだろう。


「ケイト君、眠たいならベットで寝ようね」

「ああ.....うん....」


 返事はしたが動く様子はなく、ほとんど寝ている状態のようだ。

 仕方がないのでケイトを抱え、身長のせいで引きずってしまいながらベットに寝かせる。


「おやすみ、ケイト君」

「おや...すみ、ユウ....」


 眠気に襲われながらなんとかそれだけ口にすると、そのまま眠りの世界へと旅立って行った。


「さてと、面倒ごとの片付けに行こうかな」


 俺はケイトが残したコップの片付け、そのついでに不良共の片付けに向かった。







 侵食世界を展開し、屋根の上へと転移する。

 誰かに見られると面倒なので自身の周囲を書き換え、外からは視認どころか音も匂いも、物理的な感知すらできないようにしてある。

 触れることのできない透明人間のようなものだ。

 屋根から見下ろすと先程より人数が増えているのか、はたまた見えていなかっただけか、宿を囲うように10名ほどのごろつきが集結していた。

 その中には昨日依頼に向かう際、尾行していた者もいる。


「何をするにもまず場所を移さないと」


 俺は宿を囲うごろつき達を侵食世界で囲い、ごろつきの足元の空間を書き換え亜空間へと収納する。

 その際悲鳴を上げられても大丈夫なように音を遮断、速やかに侵食世界を縮めて最小限の展開範囲で亜空間を維持し、そのまま街の外へと運搬する。

 日が暮れると街の門は閉まってしまうので権能で空を飛んで移動する。


「ここまで来れば大丈夫か」


 空を飛んでしばらく、辿り着いたのは初心者の森、上位個体と戦った広場だ。

 念の為周囲に人がいないのを確認し、亜空間の出口を作りごろつき達を放り捨てる。


「こ、ここはどこなんだ?」

「俺達なんでこんなところに!?」

「ま、まさか、このガキの仕業か!?」

「何しやがった!」

「黙れ」


 今の俺は少々機嫌が悪い。

 なにせ人がせっかく上機嫌でいたところに水を刺されたんだ、虫の居所が悪くてもこいつらにそれを咎める筋合いはない。

 ついでに多少手荒なことをしても文句はないだろう、というより言わせない。

 権能でごろつきの両手を捻じ曲げ、掌が一周半して後ろを向くように固定する。


「う、腕がぁぁ!!!」

「どうなってんだよ!?」

「喚くな。それ以上無駄口を叩くなら次は足を捻じ曲げる、それでも黙らないなら首だ。どうせ痛みはないんだ、少しの間黙っているくらいできるだろ?それとも痛みを与えた方が静かになるか?」


 腕を捻じ曲げる際痛覚を遮断しておいたので痛みは感じていないはず。

 聞きたいこともあるので激痛で喋れない、なんてことにならないようにするのと、視覚的な恐怖を与えるための行動だ。

 理解不能な出来事は恐怖を助長させるものだ。

 これで黙ってこちらの質問に大人しく答えてくれるようになるのが理想なのだが、現実は理想通りに行かないことがほとんどだ。


「うぁぁぁぁ!!!!」


 現にこの状況に頭が追いつかず恐怖で錯乱して逃走を始める者が一名。

 ちょうどいい、1人くらい見せしめは必要かと考えていたところだ。

 俺は視覚的な恐怖心を仰ぐため、彼等に見えるよう勿体ぶった動きで片手を逃走者へ向け、拳を握る。

 それと同時に逃げ出したごろつこの手足が体の中心へ向けて捻れていき、骨が砕け、肉は引きちぎれる音が静寂に包まれた森に響き渡る。


「い、いやだぁぁぁ死にたくない!?死にたくない!!た、助けて、助けてくれぇぇぇ!!誰かたすけ——!!」


 彼が最後の懇願を口にする前に捻じ曲げられて肉塊となった体に頭が巻き込まれ、そのまま拳大で血塗れの球体が出来上がる。

 俺はその肉の球体を大人しく結末を見届けていたごろつきに見える位置まで持っていく。


「お前たちにはいくつか聞きたいことがある、嘘偽りなく素直に答えろ。そうすればその腕も治してやるし解放もしてやる。ただし嘘の情報を教えたり今日の出来事を口外すれば、賢い君達なら分かるな?」


 そう言い1番近いごろつきに肉の球体を投げ渡す。

 極度の緊張と恐怖で体が震えて動けなくなっていたごろつきその1は、投げられた肉塊を受け止める気力すらないのか、肉塊をぶつけられても震える以外は微動だにしない。


「君達が愚か者で無いことを祈っているよ」


 この場に不釣り合いの笑みを浮かべ俺はそう口にした。

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