第39話
「よっこいしょ!」
ドンッ、とギルドの床を揺らす重い音をならし、俺とケイトはギルド職員に帰還を知らせる。
ギルド内に残っていたハンターもその音に釣られて視線を俺達に向け、床に置かれた荷物の中身を目にして二度見する。
それはギルド職員も同様で、受付で書類作業をしていた職員さんが慌てて俺達のもとまでやってくる。
「こ、これは緑人猿の討伐部位!?もしかしてこの袋全部緑人猿なのか!?」
「うん、初心者の森で緑人猿討伐依頼を受けたんだけど、300以上の緑人猿が潜んでたから昨日ほとんど倒してきた」
「3、300ッ!?」
「上位個体もいたんだけど、取り巻きごと消し飛ばしちゃったから討伐部位はないんだ。後でギルドの方で調査確認してよ、どうせこの後事実確認のために派遣するでしょ?」
「そ、それはそうだが、にわかには信じがたい.....でもこの討伐部位の量が本物なら大事だ!ギルド長に報告しないと!」
「えっ、あ、ちょっと!討伐部位の換金したいんだけどー......行っちゃった」
討伐部位で埋め尽くされた麻袋に血相を変えた職員さんはギルド長とやらに報告のためか、当事者を置き去りに建物の奥へと引っ込んでしまった。
「まったく、ドルド君は.....君達、その袋をこっちに持ってきてもらえるかな?査定を始めるから」
どうしようかとケイトと途方にくれていると、依頼を受領してくれた眼鏡の職員さんに手招きされた。
いい加減名前を覚えないとな。
言われた通り討伐部位を受付に持っていくと、眼鏡の職員さんが他の職員を集めて麻袋を回収させる。
数が数だけにここでは数えきれないと判断したようで、他の場所に持っていくようだ。
「あの袋を見る限り相当な数が森にいたみたいだね。まずは魔物が溢れる前に対処してくれたこと、ギルドを代表して礼を言うよ。ありがとう2人とも」
「初めての依頼でこんなことになるなんて思いもしなかったけどね」
「それに関しては本当にすまない、こちらの管理不足だった。できれば査定が終わるまでの間に現在の森の状況を報告してもらえると助かるんだけど」
「わかった、でも手短にお願いできる?私達昨日の晩から何も食べてなくて」
「それなら簡単に摘めるものを用意させるよ。報告の間はそれで我慢してもらえるかな?」
「そういうことなら」
そうして職員さんに案内された応接室でクッキーを摘みながら報告を済ませ、査定を終えた討伐部位の報酬を受け取りようやくギルドから解放された頃には、すっかり昼食を取り損ねてしまった。
そのため適当にぶらついて見つけたパン屋で硬くないパンを買い、ケイトと一緒に食べながら夕食に向けた飲食店探しをしていた。
「う〜ん、なかなかいいお店が見つからないね。無事課題を達成したケイト君にご褒美をあげたかったのに」
「まぁ無いものは仕方ないさ、他の店で美味いもんでも頼めばいい」
「それだと私の気が済まない。言い出したのは私なんだから、約束はきちんと守りますとも」
「それならいっそ、ユウが作ったらいいんじゃないか?料理得意だろ」
「得意ってほどでもないけど、ケイト君はそれでいいの?」
俺の料理の腕なんてお母さんや村の奥様方から学んだ技術と、ちょっとだけ前世拙い知識を織り交ぜただけのものだ。
おそらく店を構えている料理人の方が美味しい物を作れるだろう。
そう思い聞き返すと、ケイトは笑顔を向けて答える。
「ユウの料理は美味しいからな、ご褒美というならユウの作った料理が食べたい」
「.....そ、そっか、ふ〜ん。ケイト君はそんなに私の料理が好きなんだ」
「ああ、村にいたことからユウの作る料理が1番好きだったな」
「へぇ〜、ふ〜ん、そうなんだぁ。そっかそっか、私の料理が1番.....」
なかなか嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
自分が作った料理をそんな風に言ってもらえるのは作った側としてとても光栄だ。
何より食べてくれた人が喜んでくれるというのがこれ程まで心を満たしてくれるものだとは知らなかった。
なにぶん前世では碌に自炊もしておらず、それどころか食事を共にする者もいなかったのだから知らなくて当然か。
自分が作った料理を美味しいと言ってくれる、食べた人が笑顔になってくれる、その姿を想像するだけで自ずと料理意欲が湧いてくる。
少しだけ料理人がその道を進む気持ちがわかった気がする。
「そういうことなら、今日は腕によりをかけて作ってあげるよ!」
「それは楽しみだ」
「ふふん、存分に楽しみにしていたまえ!」
そうと決まれば飲食店探しはやめだ、今からは食材を探しに露天を周って食材を集めなければ!
「厨房は宿で借りるとして、必要な物は....ケイト君、何か食べたい物はある?」
「あれ食いたい、あの〜ハーブだかが入ったシチュー」
「シチューね、了解。せっかくまとまったお金もあるし、お肉を贅沢に入れちゃおうか」
そんな会話をしながらケイトと露天を見て周り、今晩のメニューを決めていく。
あれもこれもと食材を買い込んでいき、身長的に持てない物をケイトが、その他の食材や調味料は俺が持ち、2人肩を並べて宿へ帰る。
喜んで欲しい人を思って料理をすることがこれほど楽しく心躍る物だとは知らなかった。
俺はケイトの横顔を見ながら、美味しそうに頬張る姿を思い描く。
「どうしたんだ?」
見られていることに気づいたケイトがそう問いかける。
俺は自然と溢れる笑みを浮かべ、心のままに答える。
「とびきり美味しい料理作ってあげるから楽しみにしててね、ケイト君」
「ああ、楽しみにしてる」
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