第38話

「やり過ぎだバカ!!」

「ごめんなさい!!」


 夕日が目に突き刺さる眩しさの中、ケイトの怒声が俺の耳を突き刺す。

 上位個体を倒した後、感知できる範囲の全てを倒しきった俺はケイトと合流しようと戻っていると、ちょうど上位個体を倒した広場でケイトと再会した。

 森の入り口付近で戦っていたケイトにも感じ取れるほどの強力な魔力波動に、何か起きたのではと心配になったらしく、魔物の気配がしなくなったのを確認して俺の様子を見にきたそうだ。

 そうして森の深くまで足を進めたところ、上位個体がいた広場と直線上に開けた更地を見つけ、そこにちょうど俺が帰ってきた。

 ここで何が起きたのかと聞かれ、俺は隠すことなく素直に答えたところケイトにこっ酷く叱られていると言うわけだ。

 途中までは環境破壊を気にして最小限の被害に収めようと努めていたのだ、だが戦闘による高揚感とボスっぽい敵が現れてテンションが上がったのも否めない。

 それに今更だがハンターとしての初依頼という状況にも多少、ほんのちょっとだけ心が踊っていたのかもしれない。

 数々の要因が重なり合った結果張り切ってしまったのは仕方のないことだと、俺は声を大にして主張したい。


「わ、私もね、ちょこっとだけやり過ぎちゃったかなぁ、なんて思わなくもないよ?でも相手は上位個体だったし、油断なく確実に仕留めた方がいいかなぁ〜、なんて....」

「だからと言って森ごと魔物を消し去る必要はないだろ!これじゃ討伐部位が取れないじゃないか!」

「うっ.....ごめん....」


 そうだよね、いくら緑人猿の単価が安いとはいえあれだけの数があればそれなりの額になっていたはず、そこに上位個体がいたのであれば討伐部位だけで大金貨の2〜3枚は行ってたかもしれない。

 それだけあれば武具の新調をしたうえで、野営道具を一新でき旅先で使える薬や包帯、旅費の蓄えなどを余分に確保しても余りある額だ。


「ほんとにお前は、たまに関心させられたと思ったらこれだ。詰めが甘いというか、一つのことに夢中になった途端周りが見えなくなってだな—」


 そうしてしばらく正座させられ、ケイトのお説教を聞いている間に日が沈んでしまったのであった。






 結局今日のところはそのまま広場で野営し、明日討伐部位の回収をして帰ることにした。

 夜の森は灯ひとつなく、どこまでも続く暗闇で何も見えないため、野営の準備は日が沈む前にするものなのだが、お説教で気を取られていたケイトはすっかりそのことを失念していた。


「すまん、人のことあんだけ言っときながら...」

「まぁまぁ、お互い様ってことで。元はと言えば私が悪いんだし」


 普通の人では手元すら見えない暗闇でも俺の目には難なく見えてしまえるので、ケイトにはその場で動かないようにしてもらい1人で野営の準備に取り掛かる。

 野営と言っても元々日帰りの予定だったので野営道具は持ってきていない。

 やることと言えば枯れ枝を集めて焚き火を作ったり、そこら辺の葉や草を集めて敷き詰め寝床を用意するくらい。

 食事は一食くらい抜いても問題ないだろう、どうせ森の恵は緑人猿が食べ尽くしているだろうから探すだけ無駄だ。


「ケイト君は眠ってていいよ、見張は私がやるから」

「それだとユウが寝れないだろ?交代で—」

「却下、私は2日3日は寝なくても問題ないし、今回の戦闘は余裕を持って戦ってた。けどケイト君は体力のほとんどを使い切って疲れてるでしょ?そんな状態で無理に見張をやるより余裕のある私に任せて体を休めてて、その方が安全だよ」

「....わかった、だが次野営する時は絶対に交代で見張りするからな」

「うん、その時はよろしくね」


 真面目なケイトは俺に見張を押し付ける形になったことに思うところがあるようだが、横になった途端疲れがでたのか、ものの数秒で眠りに落ちた。


「おやすみ、ケイト君」


 ケイトの横に腰掛けた俺は、焚き火に照らされたケイトの頭を一撫でし、焚き火が消えないよう管理しつつ周囲の警戒をしながら夜を過ごす。

 ケイトの体に傷は見当たらなかったし、約束通り美味しいステーキを出してくれる店を探さなければ。







 何事もなく夜が明け、昨日倒した緑人猿の討伐部位を回収する作業に没頭する。

 幸い死骸にも生前の魔力が微量だが染み付いているので俺はもちろん、5メートル先まで探知可能なケイトも近づけばなんとなく場所を把握できる。

 そのため最初は苦戦するかと思われた討伐部位回収も、太陽が真上に来る前に終えることができた。


「今から帰ればちょうどお昼時かな?」

「う〜ん、討伐部位の換金とこの森の報告もあるからな、昼飯を食べ損なうかもしてないな」

「そうなったら.....ギルドの職員にでも昼食を用意してもらおう」

「ハンターギルドは飯食う場所じゃないんだぞ」

「そこはほら緊急時の対応で夕食も朝食も取れていない中、安全のために報告を優先しに来ました、とでも誇張して言えば携帯食の一つくらいは出してくれるんじゃない?出なかったら報告は後回しってことで」

「それでいいのかよ、一応大事だろ?」

「知らん!森の大事より空腹の方が私にとっては大事だ!ケイト君だってお腹空いてるでしょ?」

「それはそうだが....」

「そういうことだから、討伐部位は邪魔だから先に換金。そのほか報告は時間がかかりそうなら先に昼食を食べに行こう」

「まぁ、それでいいなら反対しない。なんだかんだ俺もお腹と背中がくっつきそうだからな」


 そんな会話をしながら、それでも念の為血に誘われた獰猛な獣が居ないか警戒しつつ森を抜け、街までの帰路につく。

 次からは日帰りの予定でも食料くらいは持って行くことにしよう。

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