第35話

「「「おはようございますあねさん!!」」」

「・・・」


 翌日、今度こそ依頼を受けようとハンターギルドを訪れると昨日瞬殺したハンターが綺麗に整列して出迎えてきた。

 よし、無視しよう。

 俺はギルドに入って左手にある依頼ボードへと向かう、すると何故か野郎どもも付いてくる。


「姉さん、こちらが10等級から9等級の依頼になります!」

「・・・・」

「下の方に貼ってあるのが主に薬草なんかの採取依頼です、姉さん!」

「・・・・」

「中央にあるのが荷物運びや溝浚い、物探しと言った街中での依頼になります、姉さん!」

「・・・・」

「1番上のが魔物の討伐や剥ぎ取った素材の調達依頼です、姉さん!」

「....あのさ、なんでみんなして姉さんって呼ぶの?」


 せっかく無視しようと決めたのにしつこく姉さんと呼ばれてつい反応してしまった。

 自警団でも姉さんや姉御とおふざけで呼ばれていたが、あちらは元々知り合いで同じ訓練をこなす仲間だったからまだいい。

 だが、此奴等に限っては昨日初めて顔を合わせたばかりで名前すら覚えていない相手だ。

 そんな奴等に急に姉さんと呼ばれてもちょっと不気味なんですけど?

 俺の問いにハンター達は各々口を開く。


「そりゃ姉さんがあの不良どもを懲らしめてくれたからっすよ」

「そうそう、アイツら依頼を独占したり自分より下の等級にデカい顔してこき使うし」

「目の上のたん瘤って言うか、はっきり言って迷惑だったんだよ」

「そんな奴等をコテンパンにする瞬間を見れてスカッとしたぜ」


 どうにもこのハンターギルドで大変迷惑な存在だったらしく、それでいて中途半端に実力があるものだから逆らえなかったとのこと。

 おまけにそれなりの人数で固まっている小規模組織のような状態だったのだとか。

 うむ、それだけ幅を利かせていたのであれば残党辺りが報復に来てもおかしく無いのでは?

 後でその不良グループを調べておくか。


「事情はわかった。でも私は昨日登録したばかりの新人、ハンターとしては未熟だから姉さんと呼ぶのは勘弁して欲しい」

「そうは言っても、俺達の悩みの種を懲らしめてくれた恩を返したいっつうか」

「私は降りかかる火の粉を払ったまで。それでも恩を返したいというならハンターの先輩として色々教えて、それなら貴方達も納得できるでしょ?」

「そういうことなら任せてくれ!」

「伊達に長年ハンターやってねぇぜ!」

「万年6等級だけどな!」


 頼りになるのかならないのか、そんな男達の声がハンターギルドに響く。

 まぁ、戦闘能力は高くともハンターとして必要な知識は人聞きでしかなく、経験値は全くない。

 ライザックとお父さんは口で説明するより実際に体を使って説明する方が得意なタイプなため、口頭で教えてもらった知識がどこまで役立つかわからない。

 とりあえずこいつらの事は困った時に知恵を借りるヘルプ機能とでも思っておこう。

 今回は様子見も兼ねて9等級の討伐依頼を受けることにする。

 ハンターが受けられる依頼は現在の等級から数えて下の依頼と一つ上の等級までと定められており、俺とケイトは最底辺の10等級なので9〜10等級までの依頼しかし受けられない。

 一つ上の等級を受けるにはギルド職員に何らかの方法で実力を証明しなければならない。

 例えば武闘大会などの出場経歴や道場なのの段位を示す物、或いは魔物の討伐を証明する部位などなど。

 俺達にそんな物はないのだが、昨日のちょっとしたお祭り騒ぎというか、挑戦者による悪ノリのせいで俺の実力はギルド職員に周知されたようだ。

 そりゃハンターギルドの所有物である訓練場で起きた出来事なのだから、そこの職員が把握していて当然だろう。

 どうやらあの騒ぎを黙認してもらうために、あらかじめ稼ぎの一部を訓練所の貸出料として渡すとサルジュが交渉していたらしい。

 どうりで誰も止めてくれないわけだ。


緑人猿りょくじんえんの討伐依頼だね、君達なら大丈夫だろうけど気をつけて行くんだよ?」

「はい」

「討伐部位は右耳、間違って左耳を持ってきても討伐数に入らないからね?」

「わかりました、行ってきます」

「行ってきます」


 昨日登録する際に受付を担当してくれた白髪に黒縁メガネをした物腰の柔らかい職員さんに依頼の受領をしてもらい、俺とケイトは初の依頼に出かける。

 さすがに依頼に付いてくるような真似はしないようで、男どもがギルドの建物から手を振って見送ってくれた。


「はぁ〜、慕われるのは悪い気しないけど、なんだか気疲れしちゃうな〜」

「まぁおかげで懐事情は解決したしたわけだし、急いで等級上げする必要もなくなったじゃないか」

「そうだね、余裕があるうちに一度しっかり休む日を作ろうか?」

「だな、少し旅の疲れが残ってる気がするよ」

「短いとはいえ慣れない旅だったからね、今後は旅の後は休養日を予定しておこうか」

「ああ、そうしてくれると助かる」


 そんな会話をしつつ街の門を目指す。

 道中俺達を尾行する人影、数は2人ほどだろう。


「.....後で対処すればいっか」

「どうしたんだユウ?」

「ただの独り言、それよりハンターになってからの初依頼、気を引き締めて行こう!」

「おう!」


 ケイトは尾行に気づいていないようで、これから向かう依頼に期待と、ほんの少しの緊張をしているようだ。

 尾行は俺達に手を出す様子がないため今は放置しておくが、気づかれないように理を見通す目で一瞥し記憶しておく。

 どれだけ隠れようが偽装しようがこの目からは逃れられない。

 お前達の事は覚えたぞ。

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