第34話

「ここがハンターギルドか....」


 石材で覆われた重厚な壁と広く開け放たれた両開きの扉を前にケイトがそう呟く。

 俺達からしてみれば数年越しの目標でもあり夢への出発地点、いざ目の前にあるとなると考え深いものがあるのだろう。


「2人は試験を受けるんだったな、頑張れよ」

「今の内に私達に媚を売っておかなくていいのサルジュ?未来の大英雄様だよ?」

「それはそれは、なら俺はそんな大英雄様の幼少期のやりとりを飯の種にひと稼ぎさせてもらおうとするか。この酒は大英雄ユウが幾度となく挑み、それでも手にすることができなかったお酒だ!ってな感じに」

「ほう、私はまだ諦めていないからね?」

「ふん、買わせてやると思っているのか?」

「....はぁ、なんか2人を見てると緊張してる俺が馬鹿らしく思えてきた」


 うんうん、いい感じに力は抜けたみたいだ。

 俺の意図を汲んで合わせてくれたサルジュにウインクして礼を伝えると、サルジュも密かにウインクで返してくる。

 おっさんのウインクというのもなかなか珍しい光景だ。

 そんなやりとりもありながら俺達は待望のハンターギルドへと足を踏み入れた。






〜数時間後〜


 ハンターギルドの訓練場にて、大の大人が数十名地面に倒れ、ぴくりともしない惨状が出来上がった。


「な、なんて強さなんだ!?」

「あんなの勝てるわけねぇよ!」


 見ものに来ていた他のハンターがその光景を前に恐れ慄く。


「たく、揃いも揃って情けねぇな〜」

「あ、兄貴!?」

「ムスダンの兄貴が来たからにはもうお終いだぜ!」

「やっちゃってくださいムスダンの兄貴!」

「はぁ、またこのパターンか.....」


 そして何十回と繰り返される適性試験だったもの。

 今やただの腕自慢の飛び入り参加試合となってしまっている。

 どうしてこんなことになったのか、掻い摘んで話すと以下の通りである。

 まず最初に受付カウンターに登録の旨を話し試験を受けることになった。

 試験内容はいたってシンプル、ギルド所属のハンターと模擬戦をすること。

 そして暇を持て余したハンターが率先して対戦相手を引き受けてくれたまではよかったのだが、ケイトが試験官をノックアウトしてしまい新しく試験官を引き受けてくれる者を探していた所、少々ガラの悪い男が俺の試験官になってしまった。

 どうやらこの街の不良グループらしく、犯罪こそ起こしてはいないものの迷惑行為を度々注意されるグレーな奴らだった。

 まぁその程度の奴が相手になるはずもなく、一撃で沈めたらイカサマだと叫ばれ、ならばお前がかかってこいと売り言葉に買い言葉、そこからは次々と弱い奴から出てくる四天王方式で模擬戦が始まり、途中から不良グループとかの垣根を越え、腕に自信がある者が噂を嗅ぎつけ現れる。

 そうして今の状況が出来上がったという訳だ。


「突然現れた超新星!新米ハンターユウに挑みたい奴はここに並べ!挑戦料一回大銅貨一枚!大銅貨一枚だ!腕に自信のある奴はどんどんかかってこい!玉のない負け犬は帰って親の乳でも吸ってな!」


 そして訓練所の外側ではサルジュがこの状況に便乗して一儲けしていた。

 ケイトは何故か列の整備係をられており、あっちにこっちにと荒くれ者の対応に忙しなく動いている。


「よう嬢ちゃん、俺をそこに倒れてる奴等と一緒にするなよ?油断してると痛い目見る——グハッ!?」

「はい、次」


 御大層な口上を垂れる男をそこに倒れてる奴等同様、瞬殺して列に並ぶ挑戦者を捌いていく。

 これはいつになったら終わりを迎えるのだろうか?


「ムスダン瞬殺だぁー!これは今まで挑んだどの相手よりも早い!強い、強すぎるぞ新米ハンターユウ!これはとんでもないハンターが誕生した瞬間なのか!」


 何故か有志による実況席まで設けられている。

 これでは完全に見せ物ではないか....

 まぁ、サルジュが稼いでくれている挑戦料は俺の懐にその大半が入ってくるので勝てば勝つだけ儲かるのだが.....なんか俺の思ってたのと違くね?

 そんな疑念を抱きつつも、次の挑戦者を瞬殺してまた次の挑戦者の相手をする。

 結局その日は日が暮れるまで挑戦者の相手をさせられたのであった。






「はぁぁ〜〜、疲れたぁぁ〜.....」

「お疲れユウ」


 宿に戻った俺はベットに倒れて声を漏らす。

 次々と瞬殺されているというのにやたらと自信満々に挑戦してくるハンター達は、正直弱かった。

 そのため怪我も何もしていないが、手加減をしながら長時間戦うのは妙な気疲れをしてしまう。

 そんなわけでベットに倒れ伏していると、ケイトが俺の武具を外して寝転びやすくしてくれた。


「ありがとう」

「ああ、今日はさすがに疲れただろ?飯貰ってくるから休んでろ」

「そうする」


 俺とケイトは同じ部屋で宿を取っている。

 年頃の男女が一つ屋根の下とはどういうことかと思うかもしれないが、部屋を分けると出費が嵩んでしまうというのと、今までだってお互いの家にお泊まりしたことは幾度となくある。

 自警団で魔物狩に参加するようになってからは野営で同じ毛布に包まっていたことだってあるのだ、今更同じ屋根云々でどうにかなるはずもなく、それどころか一緒にした方が旅の計画を立てる際や荷物整理の上で便利なのだ。

 まぁ、ケイトも男なわけだから?何をとは言わないが発散する必要があるのは理解している。

 その時は俺がそっと席を外すなり、買い出しなんかを口実に1人の時間を作ってやればいいだけのこと。

 俺も元は男だからな、その辺の事情は汲んでやるさ。

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